ロボット手術:消化器手術の今後について考える.

ロボット手術医学/医者関連

新型コロナウイルス(COVID-19)を背景に,医療分野に関してもオンライン診療が進むようになってきました.さらには外科領域に関しても,ロボット手術がますます進むようになってきています.

ロボット手術と聞けば,ロボットが自動で手術をしてくるもの,と思われるかもしれません.ですがそうではなく,手術を行うのは外科医=人間です外科医がロボットに指示を出して,そのロボットが指示通りに動いていくということです.機動戦士ガンダムやエヴァンゲリオンのようなものを思い浮かべていただければわかりやすいかと考えます.

今回はこのロボット手術に関して,ひとりの現役消化器外科医として考えてみます.外科医の仕事内容などはこちらの記事を参考にしてみてください.

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ロボット手術:消化器手術の未来について考える.

人間のように動くロボットの手

手術の種類:消化器外科手術は大きく分けて3種類

お腹の手術に限って言えば,手術は①開腹手術,②腹腔鏡手術,③ロボット手術,の3種類に分けられます.

①開腹手術:昔から行われている手術で,一般的に傷口が大きくなるような手術です.お腹の真ん中にズバッと傷がついてしまう,そんな印象を持たれている方が多いのではないでしょうか?

②腹腔鏡手術:小さな傷(1-2cm)をお腹に複数個所作り,その創部から器具を入れて手術をする方法.開腹手術よりも傷が小さくなることが多い.

③ロボット手術:腹腔鏡のように小さな傷をお腹に複数個所作るのは同じ.その創部から道具を入れるのではなく,ロボットが挿入される.手術する人は遠くにいても構わない.

以上の3種類の手術に分けられます.以下にそれぞれの手術を比較した特徴をまとめます.

●それぞれの手術の特徴の比較●
①傷口の大きさ:開腹手術>腹腔鏡手術=ロボット手術
②手術の早さ:開腹手術>腹腔鏡手術>ロボット手術
 *ただし手術の件数などが増えてくれば,この手術時間はどんどん縮まることが予想される*
③手術の難しさ:腹腔鏡手術>ロボット手術=開腹手術
④遠隔治療が可能:ロボット手術のみ.

このそれぞれの手術の特徴に関して以下に説明していきます.

手術の特徴①:傷口の大きさ

傷口の大きさは何といっても術後の痛みに直結します.傷口が大きいほど痛みが強くなるため,患者さんにとっての負担になります.

開腹手術は傷を大きくつけてしまうため,どうしても腹腔鏡やロボット手術と比較すると手術後の痛みが強くなります.痛みが強いと食事もとろうと考えませんし,しっかり動いてリハビリも使用とも思いません.

手術の傷の大きさは,【手術直後の入院中の患者さんの状態に直結する】,ということになります.ゆえに傷口の小さい腹腔鏡手術やロボット手術が普及してきました.

胆嚢摘出術は,腹腔鏡が普及し,疼痛が少なくなった手術のひとつです.

手術の特徴②:手術の早さ

手術の早さは,手術を行う外科医の腕にもよって様々です.ただ,一般的には開腹手術が一番早く終わります.

●開腹手術は術者と呼ばれるメインで手術を行う医者とその他2-3人の助手の医者で行われます.複数の医者で臓器を実際に触りながら,どんどん切り進めていくことが可能です.ゆえに手術は止まることなく流れるように進んでいき,手術時間も短くなりる傾向が多いです.

●腹腔鏡手術は,これまで手で触って手術を行っていたのに対し,小さな傷から器具を入れて行います.そのため,直接触れる手よりはできることが限られます.そして使える器具は,小さな1-2cmの傷に入るもののみです.そのため,1.手術を行う外科医が器具に慣れる手術件数も一定数必要なこと,2.器具には触覚がないため視覚のみで情報をとらえる必要性があること,3.カメラで映し出せる範囲でのみしか手術が進行しないこと,など手術の時間がかかる要素が数多く存在します.このため,開腹手術よりも手術時間が長くなることが多いです.

●ロボット手術は,何といっても機械のセットアップに時間を要します.このセットアップがない開腹手術や腹腔鏡手術と比較するとどうしても手術時間は長くなります.

手術の特徴③:手術の難しさ

手術の難しさをを決める要因は,同じ患者さんであると仮定するならば,腹腔鏡が最も難しいと考えます.これは人間のように【関節】が存在しないため,複雑な動きに対応できないからです.

●腹腔鏡手術は,小さな傷に棒を突っ込んで行うと想像していただければと思います.例えば,小さな隙間に挟まったものをとる時に,手が入れば最も取りやすいですが,これを長い棒を使って取ると手よりは難しいですね.腹腔鏡手術はこう長い棒を使って手術を行っています.これだけでやりづらさはわかっていただけるのではないでしょうか.

手術の特徴②でも述べましたが,腹腔鏡手術は,人間の手の【触覚】が使えません.そのために【視覚】だけに頼って手術をしなければならないのも難しい要素のひとつです.長い棒を使って行う手術のため,実際に触って確かめられません.確かめられるのは,臓器を取り出した時のみです.

●この点,開腹手術は触覚を使って行うため,手術をする側としては安心感があります.特に,針をかけて臓器を縫うような,いわゆる『縫合操作』に触覚が非常に有効です.臓器に針がかかった感覚がわかること,人間の手には関節が存在するため複雑な動きが可能であること,などから手術操作性の難しさは少なくなります.

●ロボット手術に関しては,ロボットに人間と同じように関節を持たせているため,開腹手術と同様の質を保つことが可能と言われています.さらには拡大視してみることも可能なため,より一層正確に行える可能性も大きいです.

手術の特徴④:遠隔操作が可能か

これは現状ロボット手術のみになります.

開腹手術も腹腔鏡手術もどちらも,患者さんの目の前に医者がいなければ手術は不可能です.その点,ロボットは遠隔操作も可能であるため,一人の外科医で数多くの手術を行うことが可能です.

ここまでするとロボット手術がメリットが大きいように見えるが…

ここまでの話では,ロボット手術が手術時間=手術の早さ,以外においては上回っているように思えます.そうなれば,今後はロボット手術が主流になっていく,と考えるのが至極当然かと思います.

ただやロボット手術にも課題が存在しており,これが非常に難しい問題なのでは?と私自身は考えています.

ロボット手術の課題①:コストがかかる.

ロボット手術は何といってもコストが莫大にかかるということです.その病院が手術用ロボットを購入したとしても,その費用を回収するまでに何件の手術を行わなければならないのか?ということです.

さらにはロボット手術の費用はその他の手術と比較して高額になるため,医療費の増加が懸念されます.患者さんの負担は高額療養費制度のため,変わらないかもしれません.ただこの制度も今後医療費がどんどん増えることが予想されているなかでは保てるかどうかわかりません.そうなると,ロボット手術はお金持ちのみが受けられる手術になりうる可能性が存在します.

ただこのコストに関しては,ロボットが大量生産されるようになればコストも下がってくると考えられ,ある程度は解決されていく問題であると考えます.

ロボット手術の課題②:遠隔操作で手術をしたとして,その後の術後管理を行うのは誰?

ロボット手術をどんどん行っている先生が手術を田舎の病院で行ったとします.ただ実際に病院に来ることはないため,その患者さんのその後を診察するのは,その病院にいる医者になります.

ロボット手術は,ソロ(1人)で手術を行うことが可能です.その為,手術室に入っても,ロボットを操作する以外の医者は外から見ている状況になります.野球で言えば,スタメンではなく常にベンチから試合を眺めている,そんな状況です.

手術は無事に終了したとして,その後の管理はそのベンチにいた選手に託されます.その後,その患者さんが合併症なくいけばいいですが,術後に合併症が起きたり,急変したりした場合には,その手術を見ていただけの医者に責任がのしかかります.

手術を実際にしてもないのに…その責任をとれって言われても….そんな仕事やりたくない.

このように考える医者は少なからず増加すると考えられます.なおかつ癌の患者さんとなれば,手術だけでなく手術の後に,抗がん剤(=薬物療法)や放射線治療を行わなけばならない人もいます.そのマネージメントを行うのは,手術を行っていない外科医が行わなければなりません.

手術がしたくて外科医になったのに,手術はできない,けれど責任は大きくのしかかる,そんな仕事をだれがしたいと思うのでしょうか?

こちらに関しては,術後を専門にみる医者を新設することや腫瘍内科と呼ばれる先生方が増加することが必須になってくると思われます.

『主治医制』と呼ばれる制度の日本の医療形態ではなかなか普及しないと考えています.働き方改革で主治医制ではなく,『複数主治医のチーム制』が推奨されてはいますが,いまだ導入されているのは少ないと考えられます.

ロボット手術の課題③:腸閉塞の状態の患者さんの手術は難しいかも.

これはロボット手術だけではなく,腹腔鏡手術にもいえることです.腸閉塞とは腸がぱんぱんに膨れ上がり,最終的には嘔吐してしまう病態です.

お腹が腸でぱんぱんになっているため,お腹に小さな傷をつけたとしても器具が入らない,ロボットの手が入らないなどが理由で難しい可能性があります.それゆえ,手術の選択としては①開腹手術しかなくなります.

もちろん開腹手術とロボット手術のハイブリッド方式で手術を行うことも可能です.しかしながら,底にメリットがあまり感じられないというのが,私の感想です.このため,開腹手術もなくなることはないと考えられます.

消化器外科の手術の未来

先ほどの問題点2つを乗り越えられるかがロボット手術が普及するかどうかだと考えます.その他こまごました問題はもちろん数多くありますが.

ただロボットのように巧緻技術がなくとも,『確立された手術』=『現段階でどの外科医でも高い手術クオリティーを保てている手術』の場合は,ロボットで手術を行う必要性がありません.その代表は炎症のない胆嚢摘出術です.こちらはもともと腹腔鏡で手術時間が1,2時間程度になっています.そのため,ロボットが全ての病院に数多く整備されない限りは進まないのではと考えています.

外科医視点で言えば,ロボット技術の長所は,小さい傷で,開腹手術同様の巧緻運動を保てる.ということです.

この巧緻運動(=縫合が多数必要な手術)が要する手術であればロボット技術はどんどん発展していくのではないかと考えます.これが消化器外科領域で言うと『肝胆膵』と呼ばれる肝臓・胆道・膵臓と呼ばれる臓器を扱う手術領域です.こちらの臓器の手術は数多くの再建を必要とされることもあり,未だ開腹手術で行われることの多い手術です.こういった領域にこそ早期にロボット手術が導入され,患者さんにメリットが渡ればいいなと考えます.

その他の大腸や胃(特に幽門側胃切除と呼ばれる手術)に関しては,ロボット手術はロボットの台数が数多く増加するまでは,現在の腹腔鏡手術が主流になると考えています.腹腔鏡手術が確立されており,ロボットを導入しても傷の大きさや手術時間,術後の合併症などに大きな差がなければどちらで行っても変わらないからです.

特に大腸癌の手術は,大腸癌になる患者さんは高齢化とともに今後も増加していくと考えられます.現在のロボットの台数では手術をさばききれません.数多くの手術用ロボットが全国のどの病院でも導入されなければ,腹腔鏡➡ロボット手術への移行は難しいのではと思います.

ロボット手術について現在の意見をまとめてみました.

走りだしたロボット手術ですが,まだまだ時間がかかりそうというのがここまでの印象です.ただ技術革新がものすごい勢いで進んでいるこの2020年代では,ロボットの縮小化や低コスト化も進むかもしれません.そうなればこれまで考えてきたことは全て一瞬でロボット手術にとってかわられるかもしれません.

もしそうであったとしても,それについていけるように情報をアップデートしていかなければなりません.

今回は以上になります.皆様の参考になれば幸いです.

コメント

  1. yuki より:

    こんにちは。
    ロボットが人間に置き換わるか、興味深い話題です

    今まで人手でやっていたことをAIに置き換えることはしょっちゅうやってますが、最後の砦はやはり人です
    簡単に数こなすのは代替できても創意工夫は人間の力が必要だなって。

    遠い将来は診察もロボット、AIに置き換わるかとも言われますがまだまだ先って思います。ひとってほんとにすごい

    • くちゃんくちゃん より:

      いつもブログを読んでいただきありがとうございます.

      外科手術は今はまだロボット支援手術の段階で,とってかわる領域にまでは至りそうにありません.
      ただAIを使って正しい場所で切除するなどは,少しずつ開発されてきており,AIが初期の外科医を指導する,なんてことは実現しそうになってきています.
      イノベーションが本当にすごい勢いで進んでいきますね.

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