●腸閉塞ってどんな症状?痛みはあるの?
●食事に原因はあるの?治療って手術?もし入院したらどれくらいの期間?
●退院して仕事できる?普通の生活でよい?
こんな疑問をお持ちの方いるのではないでしょうか.

腸閉塞の原因,症状(痛みを含む),治療,入院期間,退院後仕事復帰などについて説明します.
2022年現在,消化器外科医として勤務している現役医師(勤務医)が解説します.
腸閉塞とは?原因,症状(痛み),食事,治療,入院期間って? 退院後仕事復帰できる?

腸閉塞とは?
まず結論を先に言います.『腸閉塞=腸が詰まって,食事が通過しない状態』のことです.
食事というのは,口を通って便として出ていきます.当たり前かもしれませんが,口➡食道➡胃➡十二指腸➡小腸➡大腸➡肛門➡便の順番です.
食事がこの順番以外で出ることは基本的にありません.
基本的にと書いたのは,外科医はその順番を変更してしまうことができるからです.
食事の通過=一方通行の高速道路
当たり前のことですが,食事の通り道は一方通行になっています.例えるなら高速道路の片側車線をイメージしてもらうとわかりやすいと思います.
高速道路では,基本的に止まることなく車が交通しています.しかし,高速道路で事故が起きてしまった場合,そこで渋滞が発生します.
その事故が改善されない限り,車がどんどんどんどん渋滞します.そして最終的に渋滞が続くと,一般道まで出てしまい,進まなくなってしまいます.
一般道まで出てしまうともう入れない状況になるわけです.
これを人に置き換えると高速道路の入り口が人間でいう口になっており,高速道路は胃,小腸,大腸などになります.
一般道は口より外の世界,つまり食べても吐いてしまった状態です.
そう,つまり腸閉塞はお腹の中で交通事故が発生し,渋滞してしまった状態です.
- 高速道路 = 小腸や大腸などの腸
- 車 = 食事
- 渋滞 = 腸閉塞
このように考えてもらえばわかりやすいと思います.
渋滞=腸閉塞.渋滞となる交通事故(腸閉塞)の原因は?
腸閉塞の原因として最も多いのは『癒着』です.

ゆ,YUCYAKU!!
それほど難しく考えなくとも大丈夫です.
癒着とは読んで字のごとくどこかにくっつくことです.お腹の中でどこかにくっつくと,それが邪魔して道を狭くします.
再度高速道路で考えてみましょう.例えば道路のそばに山があり,それが土砂崩れでもして車線を狭くしてしまうとなると,車線が狭くなってしまうために渋滞が生じます.
車線が狭くなるだけならばいいですが,完全に閉鎖されると全く車は通過できなくなります.
お腹の中でも同様で,食べ物の通り道(小腸・大腸)が狭くなれば,渋滞が生じます.そして渋滞がひどくなれば,最終的に吐いてしまうというわけです.
本来小腸は癒着することなく自由に動き回れる状態なんですが,癒着してしまうと,癒着の仕方次第では食事の通り道を狭くしてしまうわけです.

例えば,ヘアピンカーブのように腸が癒着してしまうとそれだけで,食べ物の通るスピードが落ちてしまうのは想像できますよね.
腸閉塞の原因=渋滞を生じさせる原因
- 『癒着』・・・・腸がお腹のどこかとくっついてしまうことで,通り道が狭くなる.➡道幅が狭くなることで渋滞が生じ,吐いてしまう.腸閉塞の原因として最多.
- 『捻じれる』・・腸が捻じれることで通過できるのもできなくなってしまう.
- 『道を塞ぐ』・・障害物があると物理的に通過できない.
専門用語で細かく言えば,原因はたくさんありますが,お腹のなかで渋滞を生じさせる原因すべてを腸閉塞の原因と考えてもらえればいいです.
『便秘』すら最悪の場合,腸閉塞になります.なぜかというと,便が本当に硬くなって,通り道を塞ぐことで渋滞をひきおこすからです.
腸閉塞の症状(痛み)は大きくいって3つ.

腸閉塞の症状その①:嘔吐,吐き気
お腹の中で,食事の渋滞が起きている状態ですから,最悪の場合,吐いてしまいます.
嘔吐は腸閉塞のもっとも典型的な症状です.吐きそうという吐き気も症状のひとつです.
腸閉塞の症状その②:腹痛(痛み),お腹がはる
腸閉塞になると,お腹の中は食事でパンパンに膨れますので,お腹が張ってきます.
お腹がパンパンに張ることで痛みを伴うこともあります.通常のお腹の大きさよりもお腹が大きくなっているわけですから,皮膚も伸ばされ,お腹に力が加わり痛みをひきおこします.
その他,緊急手術が必要になるような腸閉塞では痛みがとても強いです.
腸閉塞の症状③:便,おならがでない
渋滞は基本的には腸の中のある一点で生じています.ゆえに,渋滞よりも奥の道では通常運転できるはずです.ただ食事が通ってこなければ,通常運転であってもでるものがありません.
つまり,便としてでる食事もありません.
便が出ない,空気であるおならもでない,これが腸閉塞の症状です.
腸閉塞の治療

腸閉塞の治療①:飲まない,食べない=絶飲食
少しでも渋滞がなくなるためには,車の数が減れば少しでも渋滞が緩和されます. 渋滞していても,今以上に車が来なければ,今以上に渋滞はひどくはなりませんよね?

腸の中でも同様で,これ以上食事や水分をお腹の中に入れないことが,腸閉塞の改善に寄与します.
つまり治療は何も食べない!これに尽きます.食事をせずに,渋滞が治るのを待つほかありません.
ただし,お腹の腸の場合は腸液が絶えず産生されるため,ご飯を食べていなくとも渋滞がひどくなってしまうという状況もありえます.
腸閉塞の治療②:鼻から管を入れる=減圧
渋滞が生じても,レッカー車で渋滞している車を何台も何台も運んでしまえば,渋滞ではなくなりますよね?(あくまで理論的にはですが)

お腹の中でも同様で,食べてしまったものを出してしまえば腸閉塞を改善させます.
これを減圧と呼びますが,具体的には鼻から管を通して,腸の内容物を吸ってあげることです.この鼻からの管がレッカー車と同様の働きをしています.
あとは自然と道路が再交通するのを待つだけです.
腸閉塞の治療③:歩く

え?歩くことが治療?
びっくりされた方もいるかもしれませんが,歩くのも立派な治療です.その場にじっとしているだけでは,お腹は動きません.
歩いているとお腹の中の腸が揺れ,腸が活発に動きます.揺れることで,勝手に再交通することもあります.立派な治療です.
腸閉塞の治療④:手術
もちろん手術も治療法の1つなんですが,治療としては最終手段です.道路で言えば新しく道路を作るみたなものですから,これまでと違いかなり大掛かりに感じてしまうかもしれません.
ただ手術にも大きく分けて2つあります.
- 緊急手術が必要:腸がねじれたり,1か所だけでなく2か所塞がれている時など
- 他の治療をしたけれど,どうしても治らない場合
緊急手術が必要な腸閉塞
道路そのものが崩れてしまっている,ねじれている,そんな状況の時は道路事態を整備をしてもらわないと治りません.
すなわち,すぐさま手術が必要になります.
お腹の中の腸は,血液から栄養をもらって動いています.その栄養となる血流が遮断された場合,腸はどんどん腐っていきますので,早急に手術が必要になります.

外科医が緊急手術をするかしないかの判断をするのは,この血流があるかないかが大きな判断の分かれ目になっています.
どうしても治らない場合の腸閉塞
食事もやめた,鼻から管も入れた,どんどん歩いている…
けれども治らない…
そんな時には手術をして,道路を再度整備するしかありません.
あとは腸閉塞を繰り返している場合も手術になります.食事しては嘔吐して,治ったけれど1週間ですぐにまた腸閉塞になってしまう.
上記のような場合も手術をしてもよさそうです.
腸閉塞の入院期間

結論から申し上げると,1-3週間程度です.
ただはっきり言うと症状を見ながらになりますので,読めないことも多いです.
なぜなら,便がでれば治っているとの証拠になりますから,便がでるまでは退院できません.
渋滞が解除されて,車が出口までたどり着くまでは,治ったかどうかわかりません.
便が出て,食事を再開して,同じような症状にならなければ,退院できます.
腸閉塞で気を付ける食事

消化に悪い食事は避けるというのが一般的です.こんにゃくやキノコ類などは避けた方がいいと言われます.
さらにはお餅で腸閉塞になった例もありますので,気を付けていただいた方がいいでしょう.
ただ食事も原因の一つですが,絶対に食べない方がいいというわけではありません.
腸閉塞の多くの原因は癒着ですので,癒着の仕方等によって異なるというのが正直な意見です.

私自身としては,患者さんに食事はこれまで通りで構いません.よく噛んで食べてください.
私は上記のように伝えています.ある食事を食べて腸閉塞が再発するのなら,それは食事よりも道路(=腸管)の問題だと考えているからです.
腸閉塞から退院後仕事復帰できる?

どの患者さんにもよく聞かれる質問の一つです.

どのくらい安静にしていた方がいいのか?どの程度仕事休んだ方がいいのか?
このように聞かれることが多いですが,先ほど腸閉塞の治療のところでも説明したように,『歩く』ことも立派な治療です.つまり,すぐにでも仕事復帰しても構わないということです.
しっかり運動して,しっかり噛んで食べて,普段通り生活していただく.これで構いません.
ただ手術をした場合は別です.
手術をした場合は傷のくっつき具合などで生じる合併症もありますので,激しい運動を伴うような仕事復帰の場合は時間を置いた方がいいです.1か月くらいは,腹筋を酷使する運動は避けるべきといつもお伝えしています.
腸閉塞まとめ:退院後仕事復帰できる?症状(痛み),食事,治療,入院期間って?

腸閉塞は,世間で広く知られている盲腸(虫垂炎)の手術をしてもなることがある病気です.

腸閉塞はお腹の手術をすると,起こりうる可能性のある1つの合併症です.
患者さんに説明する時には上記のように説明しています.
手術をする=お腹が外の空気に触れてしまう=癒着する可能性を高める.この可能性を作ってしまうからです.
手術は必殺技のように病気を治してしまう良い一面もありますが,そうではない合併症も持ち合わせています.
ただもし,家族や友人の方で腸閉塞になってしまったときには,『本人とご家族さんが一緒に病棟を歩く』,これも大きな治療方法の1つです.
今現在,腸閉塞で入院された方は,この記事を読んで必死に歩くことをしてみてください.
また,もし家族の方で腸閉塞で入院した方がいれば,電話やメール,ラインなどでしっかり歩くように励ましてはいかがでしょうか?
コロナ禍が終われば,面会して,一緒に歩く,そんな社会になればうれしいです.
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