2021年6月から放送開始されている,月9ドラマ【Nighy Doctor】.女優:波留さんが主演を演じられています.
医師の働き方改革に伴い,夜間だけの救急専門医「ナイト・ドクター」が結成され,夜間の病院を守るというドラマです.
夜間のみ働くという,このドラマの様な医師は現時点で存在しているのか?今後存在しうるのか?
医者は働き方改革が2024年から始まるため,それを見越して考えられたドラマです.現役医師としても非常に興味が湧きました.
こちらについて,消化器外科医として働く現役外科医が解説します.
また2022年1月放送中のドクターホワイトについても考察しています.気になる方は読んでみてください.
ナイトドクターは実在する!?現実に実際に本当にある!?医師が考察.
ナイトドクター:Night Doctor とは?
ナイトドクターは救急診療科と呼ばれる診療科で働くドクターです.
救命救急科,さらには救命救急センターとよばれる重症患者さんが数多く運ばれてくる大変忙しい病院で働いています.
しかもドラマでは救急車だけではなく,歩いて病院に来られるような患者さんまで対応していますから,相当な忙しさだと考えられます.
現実では,夜間,歩いてこられる患者さんを1日当たり20-30人診察するのが手一杯です.
それに救急車も加わるのですから,とんでもない仕事量です.
ナイトドクターが導入されたわけ.
ナイトドクターが導入される前,つまり今現在のリアルワールドの医療体制には『当直』と呼ばれる制度があります.
『当直』とは簡単に言ってしまえば,医者が24時間まるまる1日中病院にいる日になります.
働き方改革で,この当直をなくすために夜間のみ働くドクターを募集し,ナイトドクターを導入したわけです.
当直に関しては下記に詳細に書いていますので興味のある方は読んでみてください.
ナイトドクターは実在する!?実際に本当にある!?
ナイトドクターは2021年の現実世界では実在しているのでしょうか?
結論を言ってしまえば,今のリアルワールドで実在はしません.
救急車で運ばれてくる重症患者さんから,歩いて病院を受診できる患者さんまでを広く対応した病院で,夜間のみ働いているナイトドクターは実在しません.
現在世界でも朝早くから深夜までずっと病院にいるような,『オールデイドクター』は実在しています.
オールデイドクターは波留さん演じられる朝倉美月先生が朝7時ごろからきて23時ごろまでいるような感じです.
ナイトドクターのような制度でもなんでもなく,単に非常に医療に対して熱心なドクターです.
ナイトドクター導入による働き方改革
ナイトドクターの制度の導入のおかげで,日中のみ働くドクターの『quality of life (QOL)』と呼ばれる『生活の質』は一部改善されうるのかもしれません.
(QOLとは,仕事以外の私生活に与えられる時間や質などを意味して使用することが多いです.)
朝8時半ごろから働いて17時過ぎには勤務を必ず交代できる勤務体制.
上記の勤務体制で言えば,ほとんどの残業がなく,朝も決められた時間に病院にいけばいいのですから,医療業界ではかなりの好待遇と言えます.
ただ冒頭で一部改善されうると申し上げたのは,この制度が導入できるのは基本的に救急診療科のドクターのみだからです.
内科や外科のドクターには直接関係がなさそうというのが現場で働く医師の意見です.
残業が多かったり,急変したり急患が来たりした場合はすぐに病院に行かなければならないため,病院の近くに住む医者も多いです.
ナイトドクター実在できるのかについて,以下に詳しく解説していきます.
ナイトドクターは今後実在できる?本当に存在できる?
救急科のドクターのみであれば,成立しうる可能性あり.
先ほど申し上げたように救急科のドクターではあり得るかもしれません.
救急科のドクターは,救急患者を第一線で診察および管理する医者です.
そして,この救急科のドクターの多くはシフト制で働いています.
日勤の勤務,夜間の勤務,1日まるまる休日,のようなシフト体制です.
ナイトドクターを導入すれば,そのシフト体制がなくなるということですから,成立可能かもしれません.
ただ土日であっても,日中働くドクターとナイトドクターの両方のドクターが必要ですから,かなりの数のドクターが必要です.
ドラマのナイトドクターの人数で回すのは非常に過酷な環境になると思われます.
またドラマのように日中の救急医が1軍で,夜間の救急医が2,3軍と言った扱いはないと思いますし,給料で言えば夜間働いている分,ナイトドクターの方が高額になると考えられます.
救急科ドクターの仕事内容の誤解.
救急科のドクターの仕事内容は,人工呼吸器管理をしたり,中心静脈をとったり,新型コロナウイルスで話題となったECMO(エクモ)を導入したりと,とにかく診断をつけて,命を落としてしまわないように全身の管理をすることになります.
救急の先生って手術もして,内視鏡もして,何でもできるのでは?
これは大きな誤解です.手術となれば,やはりその専門の科のドクターが行うのが基本です.
例えば救命救急センターに頭の疾患,つまり脳出血やクモ膜下出血が来れば脳外科医が手術を行いますし,お腹が痛くて腸が破れていれば,消化器外科医が手術を行います.
ドラマのように救急科のドクターが手術を担うことは,細分化された日本の医者の制度ではまずありません.
それゆえ救急科ドクター以外のナイトドクターの実在は非現実的.
救急科以外のドクターは手術にしろ,内視鏡(胃カメラ・大腸カメラ)にしろ基本的に日中行われます.
緊急事態(=患者さんが急変した or 緊急手術)の場合のみ,夜間に手術・内視鏡を行うわけです.
この仕事を日中のみの外科医,夜間のみの外科医と分けることは非現実的です.
以下のような理由から実在が非現実的と考えられます.
- 物理的に人材不足.
- 夜勤勤務のみを希望する外科医や内科医が多くいるとは思えない.
- 救急科と異なり,日中と夜勤で仕事内容があまりにも異なる.(=日中の方が基本的に忙しい.)
救急科のドクターだけですべての診療を完結すれば,ナイトドクターはできる?
そこで以下のように考える方もいるかもしれません.
救急科のドクターが手術も内視鏡もできるように練習すればいいのでは?
ただ外科医が立派に育つのは最低でも10年はかかるとも言われますので,10年間外科で修練したのちに救急科に渡って手術をするようになります.
ナイトドクターを導入するには,その10年以上経験を積んだドクターが数多く必要になります.
さらに10年というのは,1つの領域に限ったことになります.
詳しく説明すると,お腹の手術だけで立派になるのに10年,頭の手術だけで立派になるのに10年,心臓の手術だけで立派になるのに10年ということです.
それに胃カメラや大腸カメラの内視鏡も加われば,,,,これは非現実的としか言いようがありません.
その後に人工呼吸器管理やECMOと言われる器具の扱い方を学ぶ,,,地獄のような勉強量が必要です.
医者の仕事は,もちはもちやということわざ通りです.
ドラマのように手術や内視鏡など,どんなことでも可能なドクターはそういません.
1つの手技を極め,専門性を高めるために,研修医の終わりにどの科に進むかを選択するので,やはり現実離れと言えるでしょう.
手術もできる,内視鏡もできる,ECMOも使えるなどは二刀流どころか八刀流,九刀流といった具合です.
これを考えると,現体制のような緊急手術が必要な場合は外科医を呼んで対応,内視鏡が必要な場合は消化器内科医を呼んで対応というのが現実的と考えられます.
ナイトドクターを実在させるためには?
極論のような話になってしまいますが,ナイトドクターを実在させる方法もあると考えます.
②研修医後は10年間の専門性,つまり外科,内科,眼科,整形外科などに分かれて修練を積む.
③医者として12年目の後に,すべての医者が救急診療科に舞い戻って診療する.
上記になれば,医者として12年目の医者が全て救急診療科に集まることとなり,外科で修練を積んだ医師,内科で修練を積んだ医師などを全て集められます.
このようになれば,日中働くドクターと,ナイトドクターを分けることが可能かもしれません.
ただし強制するような体制になるため,やはり非現実的なのかもしれません.
番外編①:ナイトドクター勤務後の睡眠
ナイトドクターとして夜勤勤務した後は,睡眠をとる必要があります.
このような夜勤勤務後にどの時間帯に睡眠するのが,最も短い睡眠で回復できるのかを研究した論文があります.
Does My Emergency Department Doctor Sleep? The Trouble With Recovery From Night Shift.
Brian Ferguson1, Hugh Shoff1, Jacob Shreffler2, Jennifer McGowan1, Martin Huecker1
J Emerg Med.2019 Aug;57(2):162-167. doi: 10.1016/j.jemermed.2019.04.023. Epub 2019 Jun 29
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31266687/
この研究では,夜勤勤務後のどのタイミングで睡眠をとるかで睡眠時間の相違,中途覚醒があるかなどを検証しています.
- ①6:00-14:00に寝るグループ,
- ②14;00-22:00に寝るグループ
- ③22:00-6:00に寝るグループ
上記の3つのグループに分けて睡眠時間を測定しています.
最も睡眠時間が短かったのは,①のグループで5時間程度でした.
他の2つのグループは7時間で,特に②のグループは中途覚醒が多く,入眠までに最も時間を要したようです.
短い睡眠時間で回復できるのかを検証したようですが,はっきりとした結論はありませんでした.
ナイトドクターのように仕事の後,遊びに行く,そして14時ごろから寝てしまうと夜中に覚醒したり,入眠まで時間がかかってしまうかもしれませんね.
番外編②:医者の忙しさ,恋愛事情
ナイトドクターとして働いた場合は,日中に休息を得たり,デートしたりと生活が逆転します.
日中で働くだけでも忙しく,医者との恋愛は難しいのに,ナイトドクターとなればさらに恋愛模様は難しいものと考えられます.
日中の医者の忙しさや恋愛に関しては,下記に詳しくまとめていますので,参考にしてみてください.
ナイトドクターが実在難しいわけは日本医療が主治医制であることも.
日本の病院で入院すれば,担当する医師が決定しています.
私が○○さんを担当します,くちゃんと言います.よろしくお願いします.
このように最初に担当する医師が決まります.この医師のことを主治医と呼びます.
その患者さんに対して,主に治す医者ですから,治療方針はほぼ全てこの医師が持つことになります.
そのため,主治医の患者さんの状態が悪くなれば主治医に電話がかかるような仕事体制になっています.
例え夜間であっても主治医に電話が行きます.
これもナイトドクターが導入できない原因の1つかもしれません.
ナイトドクター:個人的には好きなドラマ
こんな美男美女がそろって,夜間にみんなで患者さんのことを考えて,手術などをどんどんこなしていく.なんて素敵な医療現場だろうと思います.
あまりにも一人一人の技量が現実離れしているのは否めません.
ただ,このありえなさが医療従者として楽しめる要因の1つであると思います.
またドラマ中に出てくる医療用語などは現場で使用されているものと同じですし,俳優さんが本当は理解もできていないであろう CT画像を見ながら, あの難しいセリフを覚え,発するのはどれほどの苦労を要しているのか?と考えます.
現実を求めず楽しく鑑賞しています.
DVD発売も決定している模様です.日本の今後の医療について考えさせられる面もあり,ぜひ視聴してみてはいかがでしょうか?
ナイトドクターは実在する!?本当にある!?:まとめ
ナイトドクターは実在するのか?存在しうるのか?ということに関して考察してみました.
現実世界では現在存在していません.私個人の意見では,日本の医療体制では難しいのでは?と考えています.
ただ医療業界でも働き方改革は進んできています.年5日間の有休を必ずとらなければなったのは記憶に新しいことです.それまでは有休はあってないようなものでしたから.
私自身,医者という仕事は楽しく仕事をしていますが,忙しすぎると思う時間もあるのが本音です.家族との時間がもう少しとれるような仕事に改革されるのを願っています.
以上ナイトドクターにあわせて考察させていただきました.少しでも皆様のお役に立てれば幸いです.
医者の特殊な事情に関して興味のある方は以下も参考にしてみてください.
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