手術した後って,痛みがものすごく強い?
熱も出たりして大変だとよく聞くわ.
手術した後の痛み,熱,術後の影響,翌日の状態ってどんな感じ?と疑問に思われている方向けの記事です.
現在,病院で消化器外科医として手術を行っている現役医師が解説していきます.
【外科医が解説】手術後の痛み・発熱,翌日の状態,リハビリを解説.
手術も様々な種類などが存在していますが,腹部の手術に焦点を当て解説します.
手術の種類
腹部の手術は,虫垂切除いわゆる盲腸の手術から始まり,大腸癌,胃癌や膵臓癌などの癌の手術まで多岐に渡ります.
虫垂炎(盲腸)や胆嚢炎といった手術は良性疾患の手術になり,大腸癌や胃癌などの手術は悪性疾患の手術になります.
良性疾患と悪性疾患をざっくり分けてしまうと,手術して術後経過が良好であれば,定期的な通院が不要なのが良性疾患,定期的な通院が必要なのが悪性疾患,にわけられれます.こちらは本当にざっくりとした分類です.
手術時間
先ほどの良性疾患の手術と悪性疾患の手術では,一般的に良性疾患の手術の方が手術時間は短いです.
例えば,盲腸の手術は盲腸(正確には虫垂)を切除して終わることが多いので1-2時間程度の手術時間になります.麻酔の時間などのもろもろを含めても計3時間程度の手術室滞在になると思います.
しかし肝臓癌や膵臓癌のような悪性疾患の手術になると,手術時間だけで6-8時間かかることもあります.朝一番に病室から手術室に向かい,夕方17時頃に病室に戻ってくることも数多くあります.
これは悪性腫瘍は,①リンパ節を一緒にとる手術を求められること,②臓器を取るだけでなく,臓器をつなぎ直す必要があること,③悪性腫瘍の進行度によって手術の難易度が変わること,などさまざまな複合要因が追加されるため手術時間が長くなります.
外科医の手術がどんな感じなのかイメージがわかない.でも少しでも知りたいという方は下記の記事も参考にしてみてください.
手術侵襲
手術には『侵襲=体に与えるダメージ』の違いがあります.簡単に説明してしまえば,手術とは体に傷をつけることに等しい=体としては怪我をした状態と同じ,になるからです.
手術侵襲に関しても,手術時間と同様に,良性疾患では小さく,悪性疾患では大きくなる傾向があります.
ただ良性疾患でも,炎症が悪化のみならず,激化した状態で手術をすると,手術をする前にかなり体に侵襲が加わっていることがあります.そこからさらに手術による侵襲が加わるため,全体的な侵襲としては大きくなることが多々あります.
手術の種類・手術時間・手術侵襲についてまとめ
①悪性疾患(≒癌)の手術→ 侵襲が大きく, 手術時間が長い
②良性疾患の 手術→ 侵襲が比較的小さく,手術時間が短い
手術後の痛み,熱
手術が終わったその日は,麻酔の影響もあってぼーっとされている患者さんも多いです.
手術当日ではなく,手術翌日以降の状態について解説をしていきます.
手術後の痛み
手術翌日の疼痛に関しては,下記のように言われる方がほとんどです.
まぁ,じっとしている分には痛みはないですね.
特に腹腔鏡を使った傷が小さい手術の場合は痛みが少ないと言われる方が多いです.開腹手術と呼ばれる傷が大きい手術になれば,痛みを訴えられる方も多いです.
特に咳をしたり,起き上がる瞬間など腹筋に力を入れる動作が痛みを最も誘発する印象です.
痛みに関しては時間が薬です.時間が経過してくれば自然と改善することがほとんどです.
実際に私が患者さんに説明する時に言うセリフです.痛みに関しての説明は,怪我をした状態と同じですから,どうしても時間がものを言います.
具体的な疾患での痛みがどうかを知りたい方はこちら.
手術後の痛みを少なくするために,麻酔科の協力のもと対策を講じる.
手術後の痛みをやわらげるために,手術の前に背中から麻酔を入れることもあります.これを硬膜外麻酔といいます.
手術をされた方は経験があるかもしれませんが,手術室に入って,エビのように丸くなったことがあるなら,それは硬膜外麻酔かもしれません.
硬膜外麻酔があるかないかで,手術後の痛みに大きな違いがあります.
ほんとにほとんど痛みはないですね.思っていたよりもマジで楽.
術後翌日からすたすた動く方もいて,麻酔の力が絶大な効果を発揮しているのを感じる瞬間です.
硬膜外麻酔は術後3-5日目でなくなる or 抜いてしまいます.そうすると少し痛みが出てきた,と言わる人もいるくらい本当に疼痛に対して効果てきめんです.
背中からの麻酔なんて怖い.
このように言われ,絶対にしないといわれる方もいます.こういった場合も,点滴や飲み薬での痛み止めも行います.少しでも痛みがないようにつとめます.
手術後の熱
手術後に熱は必ずと言ってもいいほどでます.
これは手術が体に与える侵襲の影響です.つまり,この熱自体は悪さをするものではありません.さらに患者さんは以下のように言われることが多いです.
ちょっと熱っぽい???かな??
このように手術後の熱はわかるかわからないかの微熱程度であることが多いです.ただ中には高熱が出る方もいますので,しんどい場合は熱さまし(=解熱剤)を使用します.
この熱も手術して2-3日で自然と収まることがほとんどです.逆に言えば4,5,6日になっても熱があるようならば,術後の合併症が生じているのか?と我々外科医は疑います.
手術後の痛み,熱についてまとめ
じっとしていれば大丈夫な場合もある.咳や起き上がるときなどの腹筋を使う動作の特に特に痛みを感じることが多い.
痛みに対しては麻酔科と協力したり,痛み止めを使用したりして少しでも痛みが軽減されるように努める.
手術後に熱は,基本的にでると思っていただいて構わない.これは手術侵襲に伴うことが多く,その熱自体は特に悪さをする熱ではない.2-3日で自然と解熱することがほとんど.
手術後のリハビリ
まず手術後にリハビリ?
リハビリって怪我をした時にするんじゃないの?
一般的に『リハビリ』と聞くと,上記のようにプロ野球選手がケガして行う,そんなリハビリを思い浮かべられるのではないでしょうか?
はい,息を大きく吸って大きく吐いて,深呼吸.それから座って,立ってみましょう.できたら足踏みして,歩いて,廊下をあるきましょう.
これが手術後のリハビリの第一段階になります.日常生活に必要な動作を手術後から積極的に行っていく,これが術後のリハビリになります.
先ほどの手術後の痛みは個人差が大きいのも事実です.痛みが許せば,無理やりでも手術の翌日からリハビリを行っていきます.
いつも手術の説明をする時に,手術翌日から歩きましょうと説明すると,皆さん驚かれます.
手術した翌日から動くの!?手術したから寝ていた方がいいのでは?
これは大きな間違いです.寝ていたら,肺に溜まった痰もでませんし,肺の広がりもよくありません.何より筋肉がどんどん弱っていきます.
手術したら寝たきりになった方がいる.なんて聞いたことあるでしょうか?これは手術自体の侵襲もありますが,リハビリを積極的に行わなければ,どんどん体が衰えて歩けなくなります.
これは特に高齢者の方ほど,衰えるスピードが速いので要注意です.
寝ている患者さんをいかに起こしてリハビリしてもらうか?それも私たち医者の仕事のひとつです.リハビリをした方が手術後の回復も早く,どんどんよくなることをしっていますので.
手術したら元通りになると思ってたのに,何か悪くなっている.
手術後に元通りに近づくためにも,早期のリハビリが推奨されます.
ただ手術は元通りにはなりません.手術が怖いと思う理由のひとつです.
リハビリは誰と行う?
私たち消化器外科医は手術した翌日は外来が入っていることが多く,手術翌日に一緒に歩くことは難しいこともあります.
手術翌日に手術や外来などの絶対の仕事がなければ,なるべく一緒に歩いて,リハビリを促す毎日です.ただ多くの場合は,理学療法士さんや作業療法士さんなどのリハビリ科の先生も介入してくれます.
医者,看護師,理学療法士,作業療法士などさまざまな方が介入して,言い方は悪いかもしれませんが,何とか翌日から動いてもらおうとします.
多くの患者さんが,リハビリ科の人と一緒に頑張ってリハビリに取り組んでくれます.
手術後のリハビリの1例
実際の例を挙げてみます.私の場合になりますが,この前も患者さんと一緒に歩きました.
先生,私を助けてくれるんじゃなかったの?痛いわ!この鬼軍曹め!(笑)
このように言われました.手術後に痛みもある中,リハビリを行うのは確実に『つらい』です.ただリハビリをした方が絶対に体は元気になります.
多くの患者さんは回復した後で,感謝してくれます.あの時はひどく言ってごめんなさいね,といわれます.それゆえ,私自身は何を言われても気にしていませんし,その人の許容範囲を見極めてリハビリをしてもらいます.
今日,一緒に歩いた方は廊下を歩いて,窓の外の風景をみて,ベッドまで歩いて戻るまで頑張ってくれました.
手術の翌日からここまで頑張ってくれる姿をみれるのも外科医ならではと思います.
手術に関するご家族の心配
手術をするということは,本人のみならずご家族にとっても一大事です.それゆえ心配される気持ちもよくわかりますし,下記のように聞かれることもあります.
手術した翌日から動いて大丈夫?
手術の説明は,家族の方も交えて説明することが多いです.
家族の方に手術の説明をする際に,上記のように食い気味に来られることもあります.心配される気持ちからなのは十分承知ですが,手術後は動いた方が体にいいことは間違いないです.
例えば病気でなくとも,一日中寝ていたら体がかちかちになっちゃいますよね!?それと同じです.一番のベストは手術をした後も,日常生活通りできればいいです.
そうはいっても,手術後には痛みや熱があって,入院前のレベルの運動量をいきなりこなすのは難しいですから立ったり,歩いたりするリハビリから行います.
最終的には日常生活をできるレベルにならなければ,手術をした意味も薄れてしまいます.なのでリハビリに関しては強調して,翌日からしましょう!とお伝えすることが多いです.
入院中の家族と連絡をとるときは,リハビリを頑張るようにしっかり伝えていただけると嬉しいです.
【まとめ】手術後の痛み・発熱,翌日の状態,リハビリを解説.
手術後の痛みや熱,リハビリなどに関して説明させていただきました.
- 手術後の痛み
咳や起き上がるといった腹筋を使う動作の時に特に痛む.痛みを軽減するために,背中から麻酔を入れたり(硬膜外麻酔),痛み止めを定期的に飲んだりする.痛み止めの点滴も用意されている.
痛みは時間とともに治っていく.多くの方は1週間もすれば,痛みをそれほどいわれなくなります. - 手術後の熱
手術後は熱は出ますが,これ自体が悪さはしていませんので心配しなくても大丈夫.熱でしんどければ熱さましを使うことも可能です. - 手術後のリハビリ
手術後に歩いたり,立ったり,と日常生活に戻るための動作全てがリハビリです.特に手術した翌日からリハビリを開始します.リハビリを早期介入した方が術後の回復も早いです.
手術後の状態がわかり,少しでも患者さん本人,家族さんの不安が減れば幸いです.
当ブログでは緊急手術についてもまとめています.参考にどうぞ.
コメント
こんばんは
手術の後のリハビリ、これ、本当に主治医の先生を困らせてしまいました。。。
虫垂炎で腹腔鏡だったので傷は極小だったのに、翌日は痛みが我慢できなくてベッドから出ず
「動かないと治らないですよ」と諭されてしまいました。
日中、普段来られない時間にわざわざ来ていただいて申し訳なかったです
今思い返すと、動くことできたと思うんですよね
そんな状態だったのに、手術後5日で退院できたので大感謝してます
なので、次回は翌日からしっかりリハビリしようと思います
いつもブログを読んでいただきありがとうございます.
ただ痛みは個人差がかなりあったりするため,難しいこともあります.
初日からのリハビリは70,80歳になると,若干強めにするようにお願いしています.その後肺炎などの術後合併症にかかる可能性が若い方よりもかかる可能性が非常に高いためです.
5日で退院できたのであれば十分かと思います.