- 緊急手術ってどんな病気の場合にするの?
- 緊急手術の手術時間ってどれくらい?
- 本当にすぐ手術になるの?
- その時家族はどうする?同意書もある?全体的な流れは?
突然やってくる緊急手術.急なことで頭に入らないことが多いと思いますので,上記のような疑問があれば読んでみてください.
2022年現在,病院で緊急手術を行っている消化器外科医が解説します.
医師が解説!!緊急手術?その時家族は?同意書?病気,時間,流れなど.
緊急手術とは:定義から解説.
緊急手術とは『病気の進行を即座に止める必要があるため行う手術』となります.つまり手術せず放っておくと命を落としかねない.そんな時に行う手術です.
緊急手術の多くは,血管系の病気や感染症の病気(ばい菌が関連する)になります.
- 血管系の病気;血管が破綻しているため,手術しなければ出血や臓器に栄養が行かない.
- 感染症の病気;ばい菌が全身に広がることで,どんどん体の状態が悪化していく.
血管系は本当に突然状態が悪くなることもあり,昨日は大丈夫だったのに今日手術するの?みたいな状態になることもあります.
感染症は1,2日くらいかけて治らない腹痛などです.時間が経ったら治ると思っていたけれど治らないから病院来たら,手術と言われた.そのように言われる方もいます.
緊急手術に近い準緊急手術もある.
緊急手術で行ってもいいけれど,今は症状が落ち着いている.ただ治療のためには早期手術が望ましいために行う手術になります.
以下,日々の診療の実際の患者さんの言葉です.家族に以下のように言われます.
『なんか明日手術した方がいいらしい.今はお腹の痛み落ち着いているけれど.』
こういう場合は準緊急手術と言ってよいでしょう.
ざっくりとした印象で言うと,おそらく手術をしなくても治る可能性もあるけれど,手術した方が早期に治ったり,治った後も再発する場合がある病気が多い印象です.
予定手術(待機的手術)との違い.
通常手術は予定を立てて行うもので,こちらが予定手術(待機的手術)になります.予定というのは,手術の前に,手術に耐えられる体なのか?この手術でいいのかを外科でカンファレンスを行うと言った家庭のことです.
手術は●●月〇〇日の予定にしましょう.その前に肺や心臓の検査をします.
このように,言われた場合は予定手術です.一般的にイメージされる手術だと思います.事前に担当の医者に会って,相談し,手術の前の検査を行ってする手術になります.
緊急手術,準緊急手術,予定手術の違いは?
手術前の準備が異なる.
患者さん(家族を含めた)側にしても,医者側(医療側)にしても,準備が異なります.緊急手術の場合は以下のようになってきます.
えっ!!今から入院!?会社もあるし,,,入院の準備もできてないし…
家族も誰も来れる人いないけれど,,,入院するしかない?
患者さん側としては,入院する準備ができていない, 家族との連携が取れていない ,職場への連絡ができていないなどが多いです.
ほとんどの患者さんは手術すると思って病院に来ていませんから,当然と言えば当然なんですが,緊急に手術を必要としているためどうしてもそうなります.
医療者側としては以下のように言うことがほとんどです.
『今すぐ手術しましょう.ただ手術前の検査や状態が分かりませんのでリスクが高いです.ですがそれを差し置いても手術をした方がいい状態です.』
緊急手術,準緊急手術,予定手術のまとめ
①緊急手術:今すぐ手術をしなければならない.放置すると命の危険がある.
②準緊急手術:手術をした方がいいけれど,今はお腹の症状が落ち着いている.手術をしないと治りにくく,そんなに長くは待てない.
③待機的手術:予定や術前検査をしっかりと行ったうえで行う手術.
*しっかり検査されていないため,当然,緊急手術,準緊急手術の方が危険性は高い!!*
緊急手術の流れ,手術時間
緊急手術の流れ
緊急手術の場合,上述したように急に病院を受診して,手術になることが多いと思います.急に病院を受診しますので,それほど多くの検査はできません.多くの場合が以下のような流れになります.
お腹が痛い?→採血してみましょう→画像でも詳しく調べてみましょう.(CT)→診断.
これで診断がついてしまえば,私たちのような外科医に電話がかかってきます.頭の緊急手術であれば脳外科医,骨の緊急手術であれば,整形外科医という流れです.
初めまして,外科の○○と申します.この疾患は手術をお勧めします.
このように初めましての段階で,手術が必要であることを説明することになります.
この場で,手術しますと言っていただければ,手術の説明,麻酔の説明などを行います.ご家族の方を待つこともありますが,どうしても待てない時は本人に説明して手術します.
緊急手術の場合,手術室の準備が整い次第すぐに手術です.
①お腹痛いなどおかしいところがあるから,病院を受診.(手術がいるとは思っていない患者さんがほとんど)
②採血や画像の検査などその日に急にできる検査で診断をつける.
③病名がついたら,外科医に電話が来て,初めて外科医が説明をしに行く.
④説明が終われば,手術室が準備でき次第手術.
緊急手術の手術時間
緊急で行う手術ですので,できるだけ早く終わらせようとします.なぜなら,その病気は今すぐ手術をしないとどんどん病気が悪くなってしまうために手術をするわけです.
特に私の領域である,お腹の外科(消化器外科)であれば,手術時間はおおむね1-3時間程度です.そこに麻酔時間が1時間程度必要ですのでで,長くとも4-5時間です.
病気にもよる.消化器外科の手術であれば,手術時間はだいたい1-3時間.麻酔時間も含めると,手術室に入ってから出て来るまでで2-5時間程度.
緊急手術の時の家族は?流れはどうなる?同意書なども含めて解説.
緊急手術時の家族の流れ
結論を言うと非常に待ち時間が長くなります.
まずは患者さんの検査が終わるまで待つ,それから説明を受ける.そして手術でも待つ.手術が終わったら手術の説明を聞く.
半日は軽くつぶれてしまうと考えられます.
こういった家族を待たせてしまう時間もデジタル化などが進んで,少しでも短くなればいいのですが,まだまだそんな気配はなさそうです.
具体的に説明していきます.
病院受診から診断がつくまで
病院を受診して,どういう状態なのかの話を聞きます.いわゆる『問診』をします.これに15-20分程度かかります.こちらは家族も同席されることもあります.
その後,血液検査に移ります.血液検査は検査結果が出るまで30-40分程度かかります.この間は必ず待たなければならない時間になります.
症状や血液検査で,状態が悪そうなのでもう少し詳しく画像の検査をしましょう.
こうなると,血液検査がでてからさらに30-40分程度待つことになります.その画像の検査が終わって,医師が診断をつけて,家族にその診断を告げるようになります.
ここまで約2時間程度になります.
緊急手術の場合はどの程度待つ?
手術時間などに関しては上述した通りで,手術室に入ってから出てくるまで2-5時間程度です.
手術中ってずっと待っていなければならないの?再度電話で呼び出しとかないの?
こちらは病院によると考えられます.手術中は麻酔などで数多くの薬を使ったり,手術で出血したりなどで,それだけでも命の危険がありうることではあります.
ただその可能性は限りなく低いのも確かです.しかし,その限りなく低い可能性が起きてしまった時に,家族にすぐに連絡できない・話せないのはデメリットになるわけです.
そのため,どなたか一人だけでも手術中は病院にいてください,と言われることが多いと思います.
ただ家族が強く希望すれば,後日に説明することももちろん可能です.何しろ緊急手術で準備ができてないことも数多くあるのは確かですから.
緊急手術時の同意書
これは病気の診断がついてから手術するに際して,同意書をいただきます.強制的に手術をすることはできませんので,手術をしてもいいですか?という同意書です.
ただほとんどの患者さんの家族は緊急手術になると思っていないため,
急に手術と言われても,難しくて一回では理解できないし,その場でも理解できない.先生にお任せするしかないわ.
上記のようになる事がほとんどで,その場でわけもわからず署名する方がほとんどです.
そこで,手術の同意書の種類についてまとめてみます.
緊急手術時の同意書①:病名と術式
病気の名前とそれに対する手術の方法ですね.
急性胆嚢炎になっていますので,胆嚢摘出術を行いますね.
この時の急性胆嚢炎が病名で,胆嚢摘出術が術式にあたります.
そしてこの同意書には,術式に関する説明が,細かい字で書かれています.術式に関する説明とは,主に合併症のことです.
手術は完全に治すという必殺技でもありますが,その必殺技が上手くいかない時もあるわけです.そのうまくいかない場合について説明しておく必要性があります.
なぜなら日本の医療レベルは高くなっていて,だれしもが手術は成功するものだと考えている人がほとんどだからです.
手術がうまくいかなかったときに,
そんな話は聞いていない!!
このように言われる方もいらっしゃいます.緊急手術のため十分に時間をとって説明できないということもあるため,文面にして細かい字で書いてあることがほとんどです.
緊急手術時の同意書②:麻酔の同意書
緊急手術をするときには基本的に麻酔をかけて行います.
麻酔というのは様々な薬を使用して,強制的に眠ってもらう状況を作るため,非常に危険です.
麻酔では何も起こらないことがほとんどなんですが,確率がものすごく低くとも,何か生じることがあるため,麻酔してもいいですか?と同意をいただくことになっています.
ただ実際問題,麻酔をせずに手術をすることは現代社会ではありえないので,手術を受けることを同意する=麻酔も同意する,と言わざるを得ません.
緊急手術時の同意書③:輸血の同意書
手術というのは,出血することがあります.どんな手術でも少なからず出血します.当然皮膚を切るわけになるため,その場所から出血します.
これが大きな血管などからの出血であったり,それとももともと貧血持ちの方であれば少しの出血でも体にダメージが大きかったりします.
その時に,対応できるのが輸血になりますので,必ず輸血の同意書もあります.
過去の日本にあったような,C型肝炎のリスクなどをいまだに恐れる方もいらっしゃるため,必ず同意書があります.
緊急手術時の同意書④:個人情報保護
はっきりとした個人情報保護とは言えませんが,病院ごとのルールに従って,個人情報を保護します.といったことが書かれた同意書です.
特に,手術してとれた臓器を保存する必要があります.この臓器は患者様個人の者で,個人情報にあたるので,そちらに関して記載されていることが多いと思います.
その他もろもろの同意書
身体抑制の同意書 ➡手術してわけがわからなくなって暴れることがあるため.
中心静脈穿刺の同意書➡手術中,手術後に大量出血する可能性があるため,体の太い血管に点滴をとる同意書のこと.
などがあります.細かく言えば,まだまだあるのですが,主なのはこのあたりでしょう.
緊急手術をする病気~具体例~
私が消化器外科医として,日々診察している具体的な病気を上げます.心臓の病気や整形外科の骨折などは除きます.
緊急手術をする病気①虫垂炎:いわゆるもうちょう(盲腸)
老若男女問わず,だれでもかかりうる病気です.私自身,子どもの頃,お腹が痛い場合は『これもうちょうでは?』なんていっていました.他の友達ももうちょうだ!と言ってましたし,子どもも知っているありふれた病気になります.
症状としては腹痛,発熱などです.腹痛としては右下の方のお腹が痛くなります.
先輩の外科医が実際に盲腸になった時に以下のように言われていました.
我慢して時間がたっても治らない.歩くとめちゃくちゃ痛い.これほんまに痛い.
そんな風に言われたのを覚えています.準緊急手術を行いました.手術せず放っておくと,虫垂が破れて,どんどん炎症が周りへ広がっていきます.
緊急手術をする病気②急性胆嚢炎(きゅうせいたんのうえん)
胆汁と呼ばれる消化酵素をためておく場所で,肝臓に引っ付いていて,お腹の右上にあります.
検診で胆石があるって言われた!!
そんな風に言われたことがある方は要注意です.症状としては,お腹の右上の急激な痛みや吐き気,嘔吐,発熱などです.
手術せずに放っておくと,これもまたどんどん炎症が周りに広がっていきます.
緊急手術をする病気③ヘルニア嵌頓(かんとん):脱腸(だっちょう)がはまり込んだ状態
本来,小腸や大腸はお腹の中にあります.ただ年齢や肥満など様々な原因により,お腹周りの組織が緩んでしまい,穴ができて腸がお腹の外に出てくることがあります.
これがヘルニア(脱腸)です.
もちろん,皮膚があるので腸が直接は見えません.
ちょっと足の付け根らへんがぼこっとしているんだけど...
このように言われて受診される方も大勢いらっしゃいます.
これはおそらく鼠径(そけい)ヘルニアと言われる脱腸のひとつです.ただ出ているだけで,痛みもならばいいのですが,痛みが治まらない,吐いているなどがある場合は要注意です.
またはボコッとしたところを押したらいつもは戻るのに戻らなくなった.しかもものすごく痛い.
この様な場合は緊急手術になりえます.
穴があって,腸が出ていて,そこでループを巻いてきゅっと首を絞められた状況になっている.つまり,腸が首を絞められている状況です.人間,もし首を絞められると、、、.それが腸で起こっている状況です.
緊急手術をしなければ腸がくさってしまい、最終的には破れます.
緊急手術をする病気④消化管穿孔(しょうかかんせんこう)
お腹の中の腸が破れてしまった状態です.
年齢が若く,その他の条件がよければ手術せずに様子をみることはありますが,基本的にまずは緊急手術になります.待てません.
お腹全体が痛くて...
患者さんはじっとしていることが多いです.それはお腹が揺れるだけで激痛だからです.ゆえにお腹に力も入って硬くなります.
特に大腸が破れてしまうと,お腹の中に便が巻き散らかれるので,ばい菌が急激に広がります.
ものすごい激痛になります.手術せずに待っている猶予はありません.
緊急手術をする病気⑤腸閉塞の一部
腸閉塞に関しては別の記事で説明していますので,参考にしていただければ幸いです.
腸閉塞の中でも捻じれたり,複数個所で詰まっていたりすると,腸の首が絞められている状況になるため,緊急手術となります.
緊急手術をする病気:まとめ
緊急手術の必要な病気をまとめると以下のようになります.
①虫垂炎(いわゆる盲腸):お腹の右下に激痛.放っておくと,炎症がどんどん広がる.
②胆嚢炎(たんのうえん):お腹の右上に激痛.胆石があると言われた方で激痛は要注意!
③ヘルニア嵌頓(かんとん):脱腸が戻らない.そして腸が首を絞められている状態.
④消化管穿孔(腸に穴があく):お腹が痛くて痛くて,押さえないで!基本的に即手術です.
⑤腸閉塞の一部(ねじれなど):腸が首絞められている腸閉塞は緊急手術です.
ただし,上記の疾患であっても手術をしない場合もあります.血液検査や画像では上記の疾患だけれど,あまりにもお腹の痛みがない...
こんな時は緊急手術ではなく,準緊急手術にしたり,手術をせずに様子を見ることもあります.
緊急手術?その時家族は?同意書?病気,時間,流れなどのまとめ
外科医が緊急または準緊急手術を進める理由
これは手術をした方が治る可能性が高いからに他なりません.もしかしたら手術をしなくても治るかもしれませんが,手術をした方が早く治る,確実性がある.そんな場合に私たちは手術を進めています.
準備ができていないから,今すぐは無理だよ。。。
こういわれる方もいらっしゃいます.ただし,緊急手術は自分の体を車に例えるならば,予期せぬ交通事故にあった状態です.
そのまま交通事故にあったまま,その車で走り続けられるでしょうか?
手術前には同意書もあるけれど,正直その場での理解は難しいのでは?と思う.
この度は緊急手術について解説させていただきました.
緊急手術はいかんせん急なため,患者さん・ご家族も内容が入ってこないことが多いです.
もしかしたら,緊急手術の説明を聞いた後に,この記事を読まれる方がほとんどかもしれません.
ただ説明の後でも,私の記事を読んでくださり,現状を把握できたなどがあれば幸いです.
当ブログでは医者の生活や仕事などについても言及していますので,興味のある方はぜひ参考にしてみてください.
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