研修医時代の血液内科.おすすめ本,教科書.発熱性好中球減少ガイドラインまとめ.

血液内科・研修医時代・本 医学/医者関連
・研修医の方でこれから血液内科を研修される方
・発熱性好中球減少症って具体的に何?
・どんな経過になるの?

一生関わるはずないと思った血液内科で学び,消化器外科医となった今も使っている知識・考え方をまとめました.

血液内科は,『戦う内科』です.ばんばん発熱が出たり,真菌感染症やサイトメガロウイルス感染症に出会います.今回は,血液内科をまわる研修医におすすめの教科書を紹介するとともに,発熱性好中球減少症について詳しく説明していきます.

研修医時代の血液内科.おすすめ本,教科書.発熱性好中球減少ガイドラインまとめ.

赤血球

発熱性好中球減少症:定義

発熱性好中球減少症:Febrile Neutropenia 略してFN.

血液内科を研修すると上記の患者さんが多数いらっしゃいます.

定義:好中球数が500/μL未満,あるいは1,000/μL未満で48時間以内に500μL未満に減少されると予測される状態で,腋窩温37.5℃以上の発熱を生じた場合.

つまり好中球500/μL未満,まだ好中球下がりそうな状態で熱がある状態です

こちらに当てはまる場合,empricに治療を開始します.

empric?なんだそれは?そもそも経験なんてないよ.

そう思いながら抗菌薬治療,血液培養採取していました.

発熱性好中球減少症:治療~抗菌薬・抗真菌薬~

血液内科では抗菌薬の使用が多々あります.しかも第4世代セフェム系やカルバペネム系などの広域抗菌薬を使用しなければなりません.

経験的治療に用いる抗菌薬
●セフェピム(CFPM : 第4世代セフェム系) 1回2g, 12hour, div
●メロペネム(MEPM :カルバペネム系)      1回1g,   8hour, div
●タゾバクタム/ピペラシリン(PIPC/TAZ: ペニシリン系広域抗菌薬) 1回4.5g, 6hour, 6h 

投与量や投与時間は病院ごとに異なる場合もありますので,薬剤師さんに確認を.いずれも共通点は「緑膿菌:Pseudomonas aeruginosa」に対して効果があることです.

緑膿菌などのグラム陰性桿菌(GNR)による感染が死亡率が高い!!(40%まで至ることも.)必ずカバーしておきましょう.

抗菌薬の終了時期

ガイドラインでも明らかな見解は得られていません.基準としては,以下のようになっています.

①解熱時に好中球数が500/μLに回復している
②好中球が500/μLに達していなければ,達するまでFNの治療の続行を推奨する

★抗菌薬終了基準★
好中球500/μLに達するまで治療は継続.その後,解熱すれば終了.

ちなみに,FN患者さんの初期治療開始後,解熱までの中央値は5日と報告されています.

抗菌薬投与しても発熱続いたら?

抗菌薬投与しても発熱が継続することが多々あります.こうなったら臨床症状に着目するほかありません

  • 1日前よりよくなっているか?
  • 2日前と比較してvital signはどうか?
  • 採血は予想に反してないか?

上記を詳しく見て,今の抗菌薬でいいか?真菌をどうするか?などを決定していきます.

抗真菌薬

こちらをいつカバーするかです.ガイドラインにも明確な記載はありません.私自身は発熱が5日以上継続する場合 or 臨床症状が明らかに悪化している

この場合にはカバーするようにしています.

★抗真菌薬★
①フルコナゾール(FLCZ); 初日800mg/day, 翌日以降 400mg/day
  *アスペルギルスには効果なし*

②ボリコナゾール(VRCZ); 初日600mg/day, 翌日以降 300mg/day
  *アスペルギルス効果あり* *副作用;一過性視力障害,光線過敏症,幻視あり*

③ミカファンギン(MCFG);100mg/day, div
      *Candida.albicans 以外にも効果あり* *アスペルギルス効果あり*

④アムホテリシンB
  *抗真菌薬最後の砦のイメージ,ただめちゃくちゃ副作用多い*

抗真菌薬は副作用も多く量も病院によって異なることが多いので,相談しながら使用しましょう.

発熱性好中球減少症(FN)の患者さんの実際の状態

病室のベッドで横になり点滴を受ける患者

熱以外けろっとしている!?

先生,○○さん,38.5℃の発熱が在ります.どうしましょうか?

こんな電話がしょっちゅうかかってきます.

ちょっと熱っぽいね.でもほかは特に何ともないよ

いわゆる発熱以外に,特に臨床症状もないわけです.ただ抗菌薬を投与するために血液培養などの培養を採取させていただく,痛い思いをさせてしまう.

自分だったら嫌だなと思いながら,診療をしていました.しかも血液培養は大抵培養ははえないんですよね.

消化器外科医になったいまでもFN患者さんをみますが,まず血液培養がはえない.原因微生物が同定できる場合は10-30%程度です.外科医の上級医の先輩に,『培養なんぞとるな!』って怒られたこともあるぐらいです.

その心理は,ほとんどはえないのに,痛い思いをさせて悪いなという思いもある思います.

ただ状態が悪化した時が恐ろしい

FNの患者さんの場合,けっろっとしていたのに,すぐさま悪くなることがあります.しかも患者さん自身ももFNに慣れていることもあったりして,下記のように言われることもあります.

熱が出るのはいつものことだから.抗生物質をつかうんかね?

ただそういわれた場合,『今回も大丈夫だろう,培養はまぁいいか』と思うか思わないかです.FN発症後,2.3日で肩で息し始めた,そんなこともあります.そうなると上級医に一言,

培養は?どんな菌がでてる?

このように言われてしまうこともあります.培養を取っていなくともうまくいくことがほとんどですが,そうではない場合が困る.私たちの診療は結果が全てです.

①培養を取る瞬間の痛みを毎回我慢してもらうことで,本当にわずかな場合の万が一のリスクに備えるべきか?
②今回も抗菌薬投与することで,改善する可能性が高い.痛い思いして培養を必ずとらなければならないのかと疑問をいだくか?

診療のスタンスとしてはどちらも正解なんでしょうが,結果が全てです.私もいまだにどうするのが,正解かわかりません.

もちろんガイドライン的には培養は必ず取りましょう!となっています.

ただ血液内科って点滴点滴点滴の毎日で常に痛い思いをしたり,抗がん剤投与などで血管が細くぼろぼろになっていたりすることもよくあります.

私自身の研修医時代に経験した発熱性好中球減少症患者さん

どろまみれになってもあきらめない選手

若手が諦めたら終わり

最後に私自身が診察させていただいた,FN診療をお話しさせていただきます.その方もいつもFNになり,大丈夫だねと言われるような方でした.

ただ私が担当した2度目のFNの時には様子がおかしい.明らかに状態が悪くなっていました.その時の私は,びびりで血液培養等も採取していましたので菌種がはえるだろうと.

ただみるみるうちに状態が悪化していき,しゃべるのもままならない状態になっていきました.

治療薬もMEPM + VCM + 抗真菌薬 といったフル攻撃をしていました.

それでも感染症は改善せず,培養を採取し,治療を続けました.

ご家族さんも何とか頑張ってほしいという思いでした.

私が絶対に折れん,頑張ると思い治療を継続していました.

血球も全然回復しないので連日大量輸血.

これまでの治療でも輸血をする状態でしたので,鉄過剰になっていました.

「デスフェラール」

こんなキレート薬を使おうか迷ったのは今にも後にもこの時だけでした.

最終的には感染症科の先生も一緒に見てくださり,循環器の先生もvolumeを一緒にみてくださったり,IEになっていないかをみてくださったり,しらずに周りを巻き込んでいました.

『アムホテリシンBを使用して真菌を広くカバー,さらにはサイトメガロウイルスもカバーしよう』

そんな状況になっても明らめず診療を継続していました.

それでも培養では聞いたことも菌種がはえ,カバーできていると思われる菌もはえたり.最終的には腎機能も悪化し,ご家族さんも見ていられないと.

empricな治療?そんなのは患者さんには関係ない!

この時,学ばせていただいたのは,若手の時は経験がないため,治療の先が読めません.だからわからないことも多い反面,

絶対にあきらめぬ!このまま治療を続ける!!そういって諦めないこともできます.何度も患者さんのもと伺い,自分が状態を一番わかっている.

そう周囲に思わせることができれば,周囲もサポートしてくれるということ.今でもこの診療姿勢を貫かねば!と思っています.

経験がつくとどうしても,この経過を辿るかな?とempricに思ってしまいます.それがない時に,頑張ってみるのもいいかもしれません.

もちろん家族・本人が望んだ治療であればです.

【参考文献】&血液内科を研修する時におススメの本

以下,ふたつは今回のまとめの際に再度勉強しなおしました.改定もされていました.研修医時代にも完璧に呼んでおくことでかなり勉強になると思います.

1) 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン 改定第2版~がん薬物療法時の感染対策~

2) 青木眞,レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版,医学書院

あとはその他,血液内科研修中に使用した本・教科書でよかったのは血算・凝固についてです.

コメント

  1. yuki より:

    こんばんは

    まさに「はたらく細胞」ですね、血液のおかげで体を維持できているんですね。

    経験、は、強い武器であり、一方で人を臆病にするものだなって
    普通の仕事をしていても感じます。自分の経験で9割処理できちゃう
    経験がない1割の物事への取り組みは後ろ向きになってしまいます

    若い時の「あきらめない心」って財産
    そして、「結果が全て」、これ、とても好きな言葉です。
    お医者様はベストを尽くしても結果が出ないことも多々あるかなって勝手に想像します
    すごく陳腐な言い方ですけど、頑張ってください

    • くちゃん くちゃん より:

      いつもブログを読んでいただきありがとうございます.
      経験がないからこそ新しく取り組むことができる.新しいことをすることに挑戦するのは常に続けたいですね.
      私たちの場合,結果が全てで,その結果も医療側と患者側でずれてしまうこともあります.
      いつかオーダーメイド医療のように発展して,誰もが望む医療にさらに近づけばと思います.

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