●麻酔科医になろうと思っているけれど,他科からみてどう?
麻酔科医ではありませんが,研修医時代に麻酔科研修を行い,現在は消化器外科医として勤務する医師が解説します.
麻酔科は退屈?研修医として回った視点,外科医から見た視点.
麻酔科は非常にQOLが高い.
麻酔科は女医でも働きやすい,とよく聞く.
*QOLとはquality of life の略で,医療従事者の中では『私生活の質』などの意味で使われます*
研修医の間ではよく上記のような話がでて,働き方に対してクローズドアップされる科の1つではないでしょうか?
私の研修医当時の視点では,麻酔科は退屈そう.
研修医当時の印象としては,退屈そうと感じました.麻酔科を研修した印象はと言えば下記のとおりです.
麻酔科は研修医が必ずローテーションする科の1つです.そして,挿管をはじめとして,A-lineや脊髄クモ膜下麻酔,ブロック麻酔など必ず知って・学ばなければいけない手技が数多く存在する科です.
さらには薬剤を注射器で自分で吸って,生理食塩水で薄めて,どの割合にするか?など普段看護師さんや薬剤師さんがしている仕事もここで学びます.
手技から基本的なことまでを学ぶ,研修医的に言えば『体験して→実際に身に着ける』場です.
それらを事細かく教えているのが麻酔科医,そんな印象でした.
ただ研修医だった当時から以下のように思っていました.
手技のひとつひとつが研修医に教える内容のため,外科などの手術と比較すると成熟度が早そう.
医者7.8年目にもなれば一通りのことができるようになって,残りの年数はどうするのか?研修医に教えるばかりで,自身の成長はそこで終わるのか?
研修医時代は,私自身やる気マックスオリックス状態でした.さらには独身で,仕事のみをがんばっていればいい,そんな気持ちでしたので上記のように思ったのかもしれません.
研修医から見た麻酔科に向いている人①:物事を人に教えるのが好きな人
自分たち研修医に手取り足取り教えてくださる優しい先生が多い科,そんな印象でした.ゆえに教えるのが好きな先生が数多くいる科だと感じていました.
物事を教えるのが好きな人は非常に楽しい科だと思います.
手技を言葉にして教えなければならないため,見て覚えろ!!ではなく,言葉を咀嚼して教えられる方がいいと考えます.
研修医から見た麻酔科に向いている人②:仕事のメリハリを求めたい人
朝9時からの手術に間に合わせなければならないため,朝が早いのは間違いありません.
そして麻酔の導入が終わるまでは忙しく,麻酔の導入が終われば定常状態になることも多いです.
手術終盤になれば,麻酔から覚ますためまた忙しくなり,麻酔から覚めれば担当の患者さんは帰室します.
あとの術後管理は外科医に任せます.
17時に手術が終わっていれば,病棟業務はほぼないため,帰宅の流れです.
仕事にメリハリがあってQOLもある科であるため,規則正しい生活をしたい人に向いている科であると感じていました.
①研修医を教えることが多い科であり,ひとつひとつの成熟度は早そう.早期に1人前.👈自分1人でさっさとこなしたい人には向いていそう.
②物事を教えるのが好きな人には向いている科.
③仕事にメリハリを求める人には向いている科.👈非常にオンとオフがはっきりしているため,自分の中の仕事スイッチを入れる瞬間を絞ることも可能.
外科医からの視点:麻酔科医に向いている人
消化器外科医としてある程度手術や病棟管理ができるようになってきた状態で見る麻酔科の先生はまた違う印象があります.
麻酔科は退屈か?成熟度に関して.
研修医の時は麻酔科医は成熟度が早く,年を重ねたあとはどうするのか?と疑問に感じていました.
ただ外科医となった今では,片肺の分離換気をしたり,気管支鏡を用いて切除する肺を決定するお手伝いをしたりと非常に高度な技術も求められます.
心臓血管外科の手術になると,シリンジポンプが何個もついた状態になりますので,全身管理の見せ所になるのではないでしょうか?
やはり呼吸や循環に直接かかわる臓器を手術する際には,高度な技量が必要なのではないかと考えますし,そちらに面白さを求める先生もいるのではないか?とひそかに感じています.
ただ一般外科では胆嚢摘出術や乳腺の手術など比較的侵襲が少ない手術では,ほぼすることがない,そんな状況にもなり,同じことの繰り返しになる可能性もあると考えます.
管理する手術の種類によっては非常に高度な技量を求められる.これらに関して追求していくのであれば,成熟度は時間がかかりそう.
ただ侵襲の低い手術ばかりであれば,日々の繰り返しになりそう.
外科医から見た麻酔科に向いている人:外科医のよき『アドバイザー』
侵襲が大きい手術であったり,術後合併症が生じた場合にはSICUと呼ばれる集中治療室に入ることがあります.
SICUと呼ばれる術後の集中治療室を完全に麻酔科が管理している病院もあるようですが,多くは外科医と相談しながら管理する方が主です.
麻酔科医が関わることなく,外科医が全てを行う病院もあります.
そんな中で,外科医に対して全身管理のアドバイスをくれるのが麻酔科医ではないかと考えます.
特に人工呼吸器管理をしている場合は,明らかに我々外科医よりもレベルの高い人工呼吸器管理をしてくださるため,非常にお世話になることが多いです.
表立ってがんがん患者を見なくても,全身管理をしろと言われれば,かなりハイレベルでできるのが麻酔科医.さらには外科医に指導をしてくれるのも麻酔科医.
そんなポジションが麻酔科医ではないかと考えます.
手術に関しては外科医がプロフェッショナル,全身管理に関しては麻酔科医がプロフェッショナル.ただ術後管理は外科医が主となってすることが多いため,直接かかわれないこともある.
どちらかと言えばアドバイスするポジションであることが多い.
術後疼痛に関しては麻酔科医の腕がかなり反映される
成熟度の面と少々被るかもしれませんが,麻酔科医次第で手術の後の腹部の疼痛が異なります.
硬膜外麻酔がかなり効果のある方は,本当に痛がりませんし,離床も進んで回復も早いです.
逆に硬膜外麻酔が入っているのかどうか怪しい場合は,正直シリンジェクターが離床の妨げになると感じる時もあります.
*硬膜外麻酔とは背中からいれる麻酔です.麻酔から覚めたあとの疼痛管理に向いています*
疼痛の機序を論理的に具体的に改善するのに長けた科ですから,その腕の見せ所になります.
外科医で言えば,手術でどれだけ出血させず手術をするか,と同義語ではないかと思います.
痛みという患者さんが訴えることが可能な症状を任されている科である.さらには術後の疼痛は本当にどの麻酔科医の先生がしてくれるかで大きな違いがある.
腕の見せ所と言える場面.
麻酔科は退屈なのか?まとめ
研修医の間では,麻酔科医はQOLが高いことばかりに焦点が当てられがちです.
ただ研修医の時の印象と外科医になってからの印象では随分と異なる印象です.
もちろん外科医よりQOLが高いことには変わりはないと思いますが,これは一人の人間としての選択によるものです.
外科医だから頑張っている,麻酔科だがから退屈だ,そんなことは決してありません.
麻酔科も全身管理でかなりのプロフェッショナル性を持っていますし,外科医の全身管理に関してなにしてるんだと思う部分もあるのではないか?と外科医は考えています.
そんな時にそばでアドバイスしてくれる麻酔科の先生は非常に貴重です.
胆嚢摘出術後の患者さんの声をまとめたブログもあります.併せて読んでみてください.
血液内科についてもまとめています.
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