病気にかかって入院して,『私大丈夫か?』と聞いても大丈夫だとはっきりと言ってくれない.
手術前の説明は怖いことばかり言われたけれど,結局何も起きなかった.
先生っておおげさにいうもの?
医者の病気の説明にまつわるお話です.
風邪やケガなどではなく,入院して検査や治療を受ける場合の説明についてです.
私自身も手術をする際に説明をしていますが,大げさに説明をしているつもりはありません.
ただ起こりうる出来事をなるべく全て説明しています.
医者の説明が大げさに聞こえる原因,大げさに言わなかった場合に生じる問題,大げさに言った場合に生じる問題など,現在消化器外科医として総合病院で働く現役医師が解説していきます.
医者は大げさに言う?説明する時の本音を語ります.
手術前の説明は大げさ?まず手術の説明は『合併症』についてがほとんど.
手術前の説明では,患者さん,その家族が集まって説明をします.
そんな状況で説明をするのは慣れていますが,悪いこと=合併症を中心に話すようになるため,大げさに聞こえるかもしれません.
過去の記事で説明していますが,手術というのは病気を治すという一撃必殺の方法です.
ただ合併症もあります.手術は完全に治す必殺技と同時に,怖いものでもあります.
詳細は以下の記事で説明しています.
手術前の説明では,主に手術の『合併症』について説明することがほとんどになります.
例えば,大腸癌の手術をする時には,出血,縫合不全,人工肛門になる可能性,傷口が膿む可能性,腸閉塞になる可能性などを説明していきます.
ちなみに,これは手術のみの合併症です.
手術以外の合併症もあります.
手術をすることで体に与える影響だったり,麻酔に伴う影響だったりもあります.
手術するとなんでも起こりうるように聞こえてくる。。。
このように感じられるかもしれません.
ただ本当にその通りで,『手術をすると何が起きても不思議ではありません.』
手術を決断し,実際に手術を受ける.
そして手術が終わって眼が覚めて,日にちが経ち,食事やリハビリが始まる.
いつのまにか点滴も終わって,元気になる.
気づけば退院日を迎えている.
先生が説明したことが何も起こらなかった.先生ってすごく大げさに説明するのね.
このように感じられるケースが多いと思います.
手術の説明が大げさに聞こえたかは,手術の経過による=結果論
手術して経過が非常に順調であれば,合併症はなにもなく退院されます.
それゆえにさきほどのように,『大げさな説明だったなー』と感じると思います.
しかしながら,手術をしてその経過が順調でなかった場合には,
あぁ,手術する前に聞いてたことが本当におきたのか…手術って怖いな.
このように感じられる方がほとんどです.
その後手術に対して,積極的に踏み出せなくなることが多くなります.
医者の説明が大げさかどうかは,その人の体験によるところが多いと感じます.
はっきり言って『結果論』になります.
医者としては,大げさではなく,どの患者さんにも同様の説明をしている.
医者として,手術の説明をするようになると,その病気の一連の流れというのが見えてきます.それゆえに,手術で生じること,リスクが高い場合に生じやすいこと,などがわかります.
医者は,手術や病気の説明する時には
①病院のテンプレート
②自分自身が作成したテンプレート
で説明することがほとんどです.
そのテンプレートを全ての患者さんに用いて説明するので,どの患者さんにもほぼ同様の説明になります.
ほぼ同様というのは,同じ手術であってもリスクに違いが生じるからです.
糖尿病で治療中だったり,透析しているかただったりすると,手術後の合併症が生じやすくなります.
他にも不整脈や心筋梗塞にかかったことがある時も同様です.
このような場合には,どうしても大げさに聞こえてしまうかもしれません.
医者が大げさに聞こえるぐらいで説明していない時に生じる問題.
手術をする前にそんなこと聞いてなかったよ.
このように言われる患者さんもいらっしゃいます.
この『聞いていなかった』が伝わっていなかっただけなのか,本当に言っていなかったのかはわかりません.
手術の説明を聞いている家族・本人であれば,何度も説明をして,理解・納得をしてもらえることがほとんどです.
しかしながら,一番厄介な本音は,手術の説明を聞いていなかった家族があとから言ってくる場合です.
どうして,そんな手術の経過になるんだ!おかしいんじゃないか!医療ミスがあったんじゃないのか!?
私自身はありませんが,同じ職場で働いていた先生が言われていたのを知っています.
実際に手術の際の説明を聞いていないのに関わらず,手術の経過がうまくいっていない時だけ,もの申してくることがほとんどです.
医者がこのような経験したり,話を聞くと,『手術の説明は大げさに説明する』ようになります.
医者が大げさに説明してしまったがゆえに生じる問題.
例えば大腸癌がかなり進行していたため,最初は抗がん剤治療から開始しました.
その後,抗がん剤もバシッと決まって,癌も小さくなってきた.
このタイミングで手術を行えば,癌を取り切れる!と医者側としては思って,手術の説明をします.
今なら癌を取りきることができそうです!
ただ合併症がたくさんありすぎて,それが高確率でおきそうで…
事実かもしれませんが,手術で怖いことが起きうると説明しすぎると,
そんなに怖いことがあるなら,手術はしない.もっと別の方法で考えたい.
このように患者さんが怖くなって,手術を先延ばしに先延ばしにしてしまうことがあります.
医者としては,うー-ん.手術が最善だと考えていたけれど…
と医者としては残念と感じてしまうこともあります.
こうならないよう,患者さんの背中を押せる説明を常に心がけなければなりません.
医者は大げさに言う?経過によるが多いが,背中を押す説明でありたい.
今回の記事をまとめます.
医者が大げさに言う,説明すると感じるかどうかは,手術後の経過によって異なります.
つまり『結果論』として大げさに聞こえる場合が多いです.
先生は本当におおげさだったなー.
こんな風に思われた方は,手術がうまくいったケースだと思われます.
つまり言い換えると,すべての患者さんに『先生は大げさに言うな』と思ってもらえる治療ができればいいということです.
ただどうしてもうまくいかないケースを医者として経験します.
そうなると大げさ(=詳細すぎた)説明をしてしまうことがあります.
この大げさな説明が,患者さんの選択肢を狭める可能性もあるということです.
この説明が,患者さんの選択肢を増やし,背中を押してあげることができる説明になればいいと思います.
番外編:家族の体験による手術の拒否.
手術はしない方向で進めてほしいんです!
最初からこのように言ってこられる本人,家族の方もいます.
このような場合は,患者さん本人が誰かから聞いた,または家族が手術をしてうまくいかなかったなどの体験を持っている場合がほとんどです.
それほどまでに『手術後の結果』というのは,家族や知り合いに影響を与えます.
ただ医者として真摯に伝えたいのは,どの患者さんも状況が異なるため一概には言えないということです.
抗がん剤なども非常に進歩してきました.
昔のドラマのようにおえおえ吐くようなことはすくなくなりました.
手術も合併症を生じさせないために日に日に進歩しています.
5年前,10年前とは医療は本当に変わっています.
その5年前のある人の体験で決めつけるのはもったいない可能性があります.
医療行為は全ての行為において,体にダメージを与える可能性があります.
ただそのダメージよりもメリット(利益)が上回るがゆえに行う行為です.
誰か一人のダメージを聞くと当然怖くなりますが,それで決めてしまうと今できる最善の医療・治療を逃す可能性があることは知っておいてほしいです.
もちろん,その選択肢をとって後悔しない患者さんの選択であれば,医者は構いません.
ただ手術をしないと治らない場合や,もっと悲惨な症状がでる可能性もあります.
医者も患者もどちらの意見も尊重しながら治療方針を決めていける,そんな関係を望みます.
当ブログではこのように医療や医者の生活についてまとめています.
興味があれば他の記事も読んでいただけると幸いです.
コメント
こんにちは
手術受ける際に、起こりうる事象はすべて説明いただきました。
腹腔鏡の手術ですが、お腹に筋腫をもっているので
術野が確保できない場合、開腹になるよ、とか
回盲部まで炎症が広がっていたら開腹になるよ、とか
ドレナージュチューブ入ったら入院長引くよ、とか。
聞けば聞くほど不安になりましたが、その話を聞いてない状態で開腹、ということになったら
目を覚ましたら「なんでお腹にこんな大きな傷ができてるの」ってなると思います
幸い、開腹もドレナージュチューブも不要ということを終了直後にお聞きし
丁寧な説明をタイムリーにしていただいたことで不安も払拭されました。
自分はともかく、親とか兄弟になると余計不安は増します。母親ががんの手術をしたときは
待っている時間が本当に長かったのを覚えています
いつもブログを読んでいただきありがとうございます.
術後経過が良好そうで何よりです.
手術すれば治るかもしれないという気持ちと不安の天秤で前者が上回るようにどの人でも説明できればいいかなと考えています.
緊急手術の場合は,本人も腹痛などの症状が強いため治るならなんとかしてほしい,と思われる方がほとんどです.
ただなんとも症状がないのに手術をしないといけない状況,これが非常に難しいです.