医師として働くと食事が食べられない患者さんに栄養を入れることもあります.それは点滴でする栄養も胃ろうからいれる栄養でもです.
- 栄養について学びたい,胃ろうを作るべきか悩んでいる,
- 胃ろう使っているけれど点滴の栄養と違うの?
- 胃ろうにして良かったのか?胃ろうを選択したらつらいのか?
- 胃ろうは作らない方がいいのか,作るべきか?賛成なのか反対なのか?
様々な意見があると思いますが,わからない,難しいといった声をよく聞きますのでまとめました.
医学専門的な部分もあるので難しい部分は読み飛ばしていただければと思います.
胃ろうを作らない?作る?賛成か反対か?よかったか?つらい?
胃ろうを作る前に栄養の投与方法
栄養の取り方は①口から食べて栄養を取る方法,②点滴から栄養を取る方法の2種類に大きく分けられます.
①普段,私たちが食事を食べて,便として老廃物を出す.当たり前のような食事方法は,『経腸栄養』とよばれます.口から食べるため経口栄養とも呼ばれます.
②病院で点滴をしてもらう.これは点滴から栄養を入れており,『経静脈栄養』と呼ばれます.(ちなみに風邪をひいて調子が悪いから近くの病院で点滴してもらう.あちらに栄養はほぼ含まれておりません.)
『胃ろう』は『経腸栄養』による栄養の投与方法になります.
経腸栄養 vs 経静脈栄養
点滴から栄養入れているから,食事食べなくても大丈夫だよね?
腸を使った食事の栄養(経腸栄養)と点滴の栄養(経静脈栄養)では,全然ことなります.
はっきり申し上げれば,全く違うものと考えてもらえればいいです.もちろん,見た目上のカロリーなどは保つことが可能ではあります.
しかしながら,人間は普段,口から物を食べて生活をします.口から食事が食べられるなら口から取るのが当たり前です.そして,それが日常的(生理的)です.
根本として,なぜ手術するのか,なぜ入院するのか?
それは日常生活に戻るためにほかなりません.日常生活のような行動が退院へ近づきます.
経腸栄養の利点
少し専門的になりますが,経腸栄養は経静脈栄養と比較して以下の利点があげられます.
①消化管本来の機能である消化吸収機能を保つため
②腸管免疫系の機能が維持されるため
経静脈栄養 (医学専門)
経静脈栄養を選択 or 併用する
経腸栄養の方が生理的でよいのですが,以下の場合は経静脈栄養を選択or併用します.
例) 汎発性腹膜炎,腸閉塞,難治性嘔吐,麻痺性イレウス,活動性消化管出血 など
②エネルギー消費量あるいは必要量の60%以下しか摂取できない状態が1week以上持続
👈十分なエネルギー量が確保できない場合
末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition : PPN)
米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)ガイドラインでは2週間以内の場合にはPPNの適応とされています.
ただし,PPNではMax 1000-1300kcal/日しか投与できません.
具体名で言えば,ビーフリードとイントラリポスといった点滴の種類になります.
腸を使った栄養を早期に再開できそうなら,この末梢静脈栄養での投与を併用することになります.
中心静脈栄養(total parenteral nutrition : TPN)
こちらは2週間以上の経腸栄養が十分に使えない場合の適応になります.
ただ実臨床では,2週間以内でも栄養状態不良な場合は積極的に考慮すべきと私は考えています.
特に術前であれば,TPNをするように努めています.
要するに長期間腸管が使用できなさそうであれば,中心静脈と呼ばれる太い血管を使って十分なカロリーを投与します.
経腸栄養
口から食事を食べる以外に,腸を使った栄養を取る方法
病院で入院しているご家族さんの状態から,医者に下記のように言われた人もいるかもしれません.
飲み込む機能が悪くなって口から食べられません,今後どうするか相談しましょう.
このように生理的に口から栄養が難しくなることも増えてきています.人間が長生きするようになった結果生まれた悩みや病気の一つになります.
ただそれでも基本的には腸を使った栄養の方が望ましいため,経腸栄養についてご家族に説明していきます.
①経口栄養:いわゆる口から食べる方法です.日常の私たちがしているご飯を食べる方法.もっとも生理的(日常的)になります.
②経鼻栄養:鼻から管を胃や腸に入れて,そこから栄養剤を入れる方法です.鼻から管が入るため,患者さんの違和感がものすごくあります.長期間の栄養は難しいです.経管栄養とも言います.
③胃ろう,腸瘻:胃や腸に直接栄養を入れる方法です.不快感は経鼻栄養よりなくなりますが,食事を口から食べないため,食事の楽しみがなくなります.
①の投与方法の経口栄養が難しくなり,それが一時的な状態であるならば,②の経鼻栄養を栄養の投与方法として選択します.
②の経鼻栄養が長期化したり(つまり一時的ではない),どうしても飲み込めず肺炎になったりする場合は,③の胃ろうを栄養の投与方法として選択します.
胃ろうを作るべきか作らないべきか?などご悩むこともしばしば.
胃ろうを作るか作らないかで悩まれる家族.
胃ろうを作るということは,食事ができない(口から食べられないと)いうことにほかなりません.
胃ろうを作る時にご本人様はしゃべられなかったり,寝たきりであったり,すでに経管栄養がないと十分に栄養をとれないと状態が不良なことが多いため,最終決定がご家族になることが多いのです.
これで悩まれるご家族を何人も見てきました.
- 『口から食べられないことが生きていると言えますかね?』
- 『本人はできればしてほしくないと言ってましたが,でも何もしないのは心が痛む』
- 『胃ろうを作るのも内視鏡で苦しい思いするの?どうするべきか…』
- 『胃ろうにして良かったと言えるかな…』
- 『胃ろうではなく経管栄養のままではだめですか?』
このいづれの想いも正解なんです.
この問いに答えはないと私は考えています.
胃ろうを作るか作らないかの最終選択をするにあたって考えること.
繰り返しになりますが,胃ろうを作るのは口から食事をとれないからです.そしてその過程で,経管栄養と呼ばれる栄養方法を取る過程を取ることが多いです.
ただ,ずっと経管経鼻栄養というのは苦しいことが多いです.
経管栄養というのは,鼻に管が入っていて,それが喉にずっと当たっている状態です.喉に何かずっと引っかかっているのはしんどいと思いませんか?
経管栄養にはこのようなデメリットもあるのです.胃ろうにすれば,のどの引っ掛かりを取ることも可能です.ただどう決定するべきか,私が最終的にご家族様に言っているのは,以下のようなことです.
もう本人の生き方を尊重して,できることをしてあげる.
できることというのは,胃ろうをしない,ということも本人が望むできることです.
ご家族さんみんなでよく話し合ってください.
答えがないからしんどいのですが,どうするかを選択しなければなりません.
ただご家族さんが納得して決定されたことならば,本人さんもわかってくると思います.
上記のようにお話しさせていただいています.
胃ろうを選択した家族から聞いた経験
手術をした患者さんで,その患者さんの旦那さんが胃ろうであったと聞くことがありました.
夫を3年間,見させてもらったけれど,よかったー.最後はいい形で送り出せた.
このように肯定的にとられている方もいました.
ただまたある患者さんからは
自分自身も歳で,胃ろうの栄養の管理が大変.便も出るからそれを変えるのも,正直大変になってきました.でも,がんばるしかないですよね.
高齢化の進んでいる日本では同じような悩みを抱えられる方はたくさんいらっしゃると思います.
難しい問題ではあります.
胃ろうではなく経静脈栄養を選択することも可能.
胃ろうではなく,【ポート(CV port)】と呼ばれる点滴をするアクセスを作ることも可能です.
点滴で充分量の栄養を入れることが可能な方法でもあります.
ただ冒頭でもお伝えしたように,経腸栄養の方が生理的ではあるのは確かです.
ただ便の管理の必要がなかったり,肺炎になるのはすくなかったりとメリットもあります.
まとめ;胃ろう作らない?作る?賛成か反対か?よかったか?つらい?
胃ろうをつくるかつくらないかの決断は,意思決定のできるうちに家族や周囲の人に話しておくこと.
みな誰しも自分が胃ろうになるなんて思ってもいませんし,嫌なことは敬遠しがちです.
ただ病気というのはいつどこでかかるかわかりません.交通事故のようなものです.
ただ人生100年時代になると,病気になる確率は増えますし,胃ろうが必要かもと思われる方が増えることが予想されます.
自分自身どうしたいのか,どう生きたいのか,家族や周囲の人に話しておくのはいいかもしれません.
決定する時に悩む家族の顔などを想像してもらえれば,おのずと答えは出るのではないかと思います.
胃ろうを作ることに賛成も反対もなく,明確な答えはない.
胃ろうは非常に難しいですが,高齢化の進む日本ではどんどん増えていくことが予想されます.
この胃ろうを作る,作らないに関して本当に正解はありません.
胃ろうを作ったあとは,その管理をするのは家族になることが多いですし,病院は面倒をみてくれるわけではありません.
その作った後の労力は,考えるよりもしんどいと言われる方の方が圧倒的に多いです.
ただ配偶者や両親にまだまだ生きていてほしい,そんな切なる願いで,作る方が多いのも事実です.
何も治療してあげないのはちょっとね、、、
このように考えられる方が多いですし,至極当然だと思います.
答えがないからこそ,家族間での家族の答えを共有しておくことが大切だと思います.
【参考文献】
1) 静脈経腸栄養ガイドライン 第3版,日本静脈経腸栄養学会 編集,照林社
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