術後に栄養剤使用しなきゃいけない状況だけれどよくわからない.
胃ろうなどで栄養剤使用しているけれどよくわからない.
急に栄養剤と言われるとそんな風に思うことないでしょうか?
タンパク質が大切で食生活でもよくとっているけれど,タンパク質?肉や魚でしょって感じなんだけど,もう少し詳しく知ってみたい.医学的観点からも説明してほしい.
医学的にもタンパク質は非常に重要とされています.そこでタンパク質を『消化管』の観点からも少し説明します.
経腸栄養(経鼻経管/経鼻胃管)の栄養剤の種類やアミノ酸・タンパク質などに関して説明していきます.
術後で胃が小さくなると食べられなくことが多々あります.そんな時にも使用する栄養剤のお話です.
外科医が考える手術としては以前の記事でお話しさせていただきました.
現在消化器外科医として経腸(経鼻経管/経鼻胃管)栄養剤を実臨床で継続して使用している医師が解説していきます.
前半は経腸栄養剤の種類で主に医療従事者向け,後半はタンパク質に関して少し解説しており,一般および医療従事者向けになっています.
前回の記事の胃ろうと関係するお話もおおいですので,こちらの記事も参考にしてみてください.
経腸(経鼻経管/経鼻胃管)栄養剤~種類・特徴~
栄養剤種類①:経腸栄養剤と濃厚流動食
栄養剤の種類を大きく分けると,以下の二種類に分かれますが,こちらはあまり深く考えなくていいです.
- 医薬品として販売されているもの = 経腸栄養剤 (enteral formula, enteral nutrient)
- 食品として販売されているもの = 濃厚流動食 (high density liquid diet)
この記事でも経腸栄養剤と濃厚流動食は同じものとして記載していきます.
ただ医師の方は以下は知っておきましょう.
医薬品のため医師が処方箋でオーダーする,食品は食事指示箋でオーダーする違いがあります.すなわち経腸栄養剤は医師がオーダーし,濃厚流動食は食事として提供できるということです.
栄養剤種類②:天然濃厚流動食と人工濃厚流動食
原材料から天然濃厚流動食と人工濃厚流動食に分類されます.現在使用されている製剤は,人工濃厚流動食になります.
こちらもふーんと思っていただくだけでいいと思います.
栄養剤種類③:人工濃厚流動食
栄養剤の種類は,組成に応じて,成分栄養剤,消化態栄養剤,半消化態栄養剤に分類されます.
まずはこの大きな3種類の分類を理解しておきましょう.
★人口濃厚流動食★
3種類の分類は構成される窒素源(タンパク質)で分類.
- 成分栄養剤 (elemental diet) :構成たんぱく質 アミノ酸
- 消化態栄養剤 (oligomeric formula) :構成たんぱく質 ペプチド
- 半消化態栄養剤 (polymeric formula) :構成たんぱく質 タンパク質
名前がなんか中途半端になっていて覚えにくい.成分栄養,消化態,半消化態,,,いやいや,半ってつくならその真ん中でしょ!
成分栄養,半消化,消化の順にしてほしい,見るたびに思うのは私だけでしょうか?このようになった理由を知っている方がいれば,ぜひ教えていただきたいです.
半消化態の『半』は食事と消化態の真ん中という意味なんでしょうか?
栄養剤種類:成分栄養剤
成分栄養剤の窒素源は,アミノ酸です.具体的な薬品名で言うと,エレンタール,へパンED が該当します.
最大の特徴はなんといっても消化過程を経ずに消化管から吸収されることです!つまり食物残渣がほとんど残らない,便にもなりにくいことです.ただあくまで理論上にはなりますが.
ただどうしても低脂肪であるため必須脂肪酸の欠乏には注意です.セレンの欠乏も報告されています.
実臨床で使う場面で言えば,適応疾患:短腸症候群,吸収不良症候群,クローン病,膵炎,などになります.要するに腸管は安静にしたけれど,経腸栄養もしたいな,そんな時に使用します.
●特徴:窒素源が全てアミノ酸
●特徴:ほぼ小腸で吸収されるため,残渣が残らない=腸管安静が保てる
●欠点:必須脂肪酸欠乏,微量元素欠乏(セレン)
栄養剤種類:消化態栄養剤
消化態栄養剤の窒素源は,ペプチドになります.細かく言えば,アミノ酸,ジペプチド,トリペプチドです.具体的な商品名で言うと,ツインライン,エンテミール,ペプチーノ,ペプタンなど が該当します.
特徴は成分栄養剤同様,タンパク質が入っていない.しかし脂肪は多くの栄養剤で含まれている.(ペプチーノは脂肪を含まない)
適応疾患:成分栄養剤同様であまり実臨床では使わない印象です.ただ日本では消化態栄養剤より成分栄養剤が使用される印象ですが,欧米では異なります.注意しましょう.
●特徴:窒素源がペプチド
●特徴:成分栄養剤同様タンパク質は含有されていないが,脂肪が含まれている
*日本では成分栄養剤の方が使用されている印象*
栄養剤種類:半消化態栄養剤
半消化態栄養剤の窒素源は,タンパク質です.脂肪も必要量含まれています.成分栄養剤, 消化態栄養剤と比較して種類が豊富なのも特徴です.医薬品になるのはエンシュア,ラコール,アミノレバンなどになります.
適応:消化・吸収機能に異常がない場合は第一選択,これにかぎります.栄養補給の意味合いとしても強くなってきます.
●特徴:窒素源はタンパク質で,脂肪も必要量含まれている.
●特徴:消化管の異常がない時は,第一選択.
*エンシュア,ラコールには食物繊維は含まれていない*
種類が多いため,そちらを書ききることは難しいですし,無意味です.病院で採用されている半消化態栄養剤を確認するといいと思います.あえて言うのであればエンシュアとラコールに関しては,半消化態栄養剤の基本ですので覚えておきましょう.
タンパク質:構成~アミノ酸,ペプチド,タンパク質~
タンパク質とはアミノ酸の集まり
結論から言ってしまえば,タンパク質はアミノ酸50以上結合したもののことです.順番で言うとアミノ酸<ジペプチド<トリペプチド<オリゴペプチド<タンパク質(ポリペプチド)になります.
この順番でアミノ酸が多く含まれています.
ミクロレベルの話になってくるため非常に難しくはなります.
タンパク質が消化管で吸収されるを考えてみる.
タンパク質は分解されて,ジペプチド,アミノ酸になれば吸収されます.そして実はジペプチドの吸収速度はアミノ酸吸収よりも早いです.
そのためより腸管を安静にしながら,経腸栄養を使用したいとなると『アミノ酸』を含む栄養剤を使用するようになります.
医療者側からすれば,エレンタールを選択するようになりますね.
ただ,実臨床でより腸管を安静にさせたい!そのような状態にはなかなか出会うことはありません.日本では消化態栄養剤より成分栄養剤が使用されることがおおいため,エレンタールの使用が多いです.
ただアミノ酸の大量摂取は腸管の浸透圧を挙げてしまうため,下痢しやすくなることもあるので注意した方がいいです.
吸収しやすいことのデメリット
ラットの腸管の粘膜の変化を比較した検討があります.
食事>半消化態栄養剤+食物繊維>半消化態栄養剤>成分栄養剤>中心静脈栄養
この順番で小腸粘膜の柔毛状態を維持できたと言われています.人では差がないともされる検討ありますが,栄養の吸収が生理的であればあるほどいいと思うのは私も同意です.
●タンパク質はアミノ酸の集まり.アミノ酸が最小単位.
●小腸で吸収されるのはアミノ酸,ジペプチドの状態.
●投与製剤が生理的であるほど,小腸粘膜の柔毛を維持できる可能性がある.
経腸(経鼻経管/経鼻胃管)栄養剤~実臨床ではどう使うか?
実臨床の場では,成分栄養剤と半消化態栄養剤の2種類しか使ったことありません.
しかも使われる栄養剤は,限られており,覚えてしまえばそれほどしんどいことはありません.成分栄養剤はエレンタール,半消化態栄養剤はエンシュア・ラコールです.あとはその派生です.なんだか呼吸法みたいですが.
栄養に関しては,とにかく原理原則、生理的な吸収に近づける.これに限ります.口から食事を食べて排泄できれば,生活ができるので退院が近づきます.それを最初は成分栄養剤(アミノ酸)から初めて,徐々にタンパク質に近づけていくということです.
そしてアミノ酸からいきなりタンパク質に飛ぶことも許容されるということです.私自身は消化態栄養剤も使ってみたいとは常々,思っていますが,これはやったことがないことをしたいという外科医のエゴに他ならないとも思います.
消化器外科の場合は,縫合不全のような場面でも使うので,脂肪成分が含まれていると怖いと思う自分もいます.
今回は難しい話になりました.少しでも皆様のお役に立てれば幸いです.
外科医の仕事内容について興味のある方はこちらです.
ご飯が普通に食べられない状態のひとつが腸閉塞になります.
コメント
こんばんは
難しくて何がなんやら、という感じでした。外科医さんは切ったはったがすべて、と
いうわけではないんですね、こんなにたくさんの難しいことを覚えるなんてすごい。
今、病気の関係で食事指導を受けているんですが、栄養素を摂るのには
サプリとかで摂るより自然に消化して腸から吸収するのがいいです、とのことで
これと同じ感じなのでしょうか?>生理的な吸収に近づける
やはり医学とは遠い存在だなって思いました
いつもブログをよんでいただきありがとうございます.
サプリにしろ,自然に食事でとるにしろ,どちらも腸を使用した吸収になるため経腸栄養=生理的な吸収になります.
私が強調したいのは,点滴で栄養ではなく,食べて食事をとることです.点滴が非生理的な吸収です.
口から固いご飯が咀嚼でき,1日にの栄養が取れるのであれば,生理的な吸収は十分できていると個人的には思います.