●内科のカルテはきちっとしているのに,外科のカルテは数行で終わる.なかなか読み取れない.
医者や看護師などの医療従事者であれば誰しもが書くことがある,カルテについてのお話です.
カルテにはSOAPと呼ばれる,S:主訴,O:身体所見などの客観的情報,A:評価,アセスメント,P:プランが主に使われています.
ただ最初はOとAの違いがよく分からなかったり,Assesmentができなかったり,なかったりで慣れないことも多いと思います.
このようなカルテに関して,総合病院で働く消化器外科医が解説します.カルテを理解するうえでも大切なのが言語化です.こちらもあわせて読んでいただくと理解が深まると思います.
特に研修医時代にローテした神経内科で最もカルテの書き方を教えてもらいました.その為その研修も踏まえて解説していきます.
主訴を追求したカルテの書き方.神経内科研修で学んだ医療.
カルテの中でもわかりにくいのが,OとAが混在している場合があるからです.腹痛で言えば,右下腹部痛ありはOに当たり,腹膜刺激兆候ありはAに当たります.
Oは視診・聴診・触診などの所見のみ,それに対する評価がAです.Oはあるとかないとか,その他は数字の記載になり,Aは自分自身の意見を言うようになります.
これ以外でもカルテには書くポイントがあり,私は研修医の頃はわかっていませんでした.神経内科をまわって教えていただきました.
君は何が言いたいんだ?何を言っているんだ?
これは私が神経内科のカンファレンスでプレゼンが終わった後に言われたひとことです.神経内科とは脳梗塞やギランバレー症候群,てんかんなどを扱う領域の科になります.
この神経内科の特徴は,非常に患者さんの話(=主訴)に時間をかけて体の状況(=身体所見)を取り,病気の評価をしていく科だと思います.それゆえにカルテが非常に長いです.
BOSS『まるで分っていない.道筋が見えていない.』
『君は患者さんから何を聞いてきたんだ?』
『何を言っているんだ.言いたいんだ?』
このように研修医1年目の時にカンファレンスの後,言われたことは今でも強烈に覚えています.初めて行った海外で税関を通る時に言われた英語が全く聞き取れず,カメラの方を向いてと言われてるのにあちこち向いているくらい挙動不審だったと思います.
私:『えっと・・・(いやいや,診断もあっていると思うし,昨日上級医にも確認したけどな.おいおい,上級医の先生もみなだんまりかよ.),わかりません.』
カンファレンスが終わった後に,上級医に笑いながら言われた.
上級医:『いやー、ごめんごめん.あれ研修医みんなが通る洗礼みたいなもんなんだよね.』
確かにカンファレンス前日に少し厳しいよとは言われてたけれど,ただここまでサンドバック状態とは聞いていない!!
その後は,少しずつカルテについて考えながら,どう書くのがいいかを考えて,毎日のカンファレンスに臨んだ.
カルテは道筋を決めて書くもの
神経内科をローテーションして,自分なりにも毎日毎日カルテを考えて書いていました.1か月経過ある日のカンファレンスで,
BOSS『最初と比べれば,カルテの書き方も伸びてきましたね~.』
『常に道筋を決めてカルテを書いてプレゼンするんですよ.』
私『ありがとうございます!(道筋?伸びてるのはプレゼンする時の背筋だけですよ?)』
当時の私には,正直意味は分かりませんでした.しかし,褒められるのはうれしかったので,現状を続けてカルテを充実させて書くこととしました.
カルテの道筋とは?
カルテの道筋がわかり始めたのは,研修医2年目になって,自ら他科の上級医にコンサルトしたり,研修医1年目の後輩に説明するようになってからでした.
他科の上級医にコンサルトする時は,以下に簡潔に伝えられるか?後輩に説明する時にいかに論理的に説明できるか?
こういった時に大切なのが『カルテの道筋』でした.
★カルテの道筋★
- 主訴→現病歴→身体所見→神経学的所見→画像所見…などその全てを一連の流れで説明する
- 答え(診断)がわかっているなら逆算して,プレゼンテーションの答えに着くように書く.
- 診断から逆算して主訴にたどり着けないのならば,その診断は違うかもしれない.さらには患者が求めているものではないのかもしれない.
- その場合,別の答えがないかを探さなければならない
- 私たち医者の誰もがそのプレゼンを聞いて,それで間違いないと言わせられる.
これをわかったうえでカルテを書いているかどうかが非常に重要です.それだけで,伝わりやすさが全然違うと思いますし,わかる先生にはわかります.
S➡O➡A➡P がこうだからこう,とひとつずつ流れるように当てはまっていくようにカルテを書くのです.消化器の領域は非常に簡単で,特に救急外来ではS:腹痛➡O:右下腹部の圧痛➡A:腹膜刺激兆候ありと疑う➡P:造影CTを施行する.とこれ以外の選択肢があまりありません.
こう聞くと,『そんなの当たり前でしょ!』と思う方もいると思います.ただいつの間にか,『主訴から外れたカルテ』を書いている場合もあります.採血に惑わされたり,他の先生にこれもあるんじゃない?と言われたりで道筋からいつの間にか外れています.
カルテが道筋から外れていること
今現在,消化器外科医になって,たまーにであうお話です.救急外来でS:主訴がふらつきなどで呼ばれることがあります.
研修医『採血で肝臓の数値が上がってて,CTでも胆嚢腫れてて,胆嚢炎だと思うんですが.』
画像的には胆嚢炎かもしれないけれど,ふらつきに対してはなにもしらべていないな~.こんな風に思うこともあります.そして最終的によくわからなくなって画像をとって,胆嚢が腫れてそうだから胆嚢炎に行きついています.
まず,ふらつきが,めまいなのか失神のような感じなのか,その訴えからどんどん身体所見につなげていって,その身体所見および採血から導き出していく,手順をわすれてはなりません.
医療とは患者さんの主訴を追求し,解決すること.
神経内科でカルテをひたすら制度を高めるようになった後によく言われました.
BOSS:我々の仕事は患者さんの主訴を解決することに他ならなりません.いいですか.だから,主訴とその後のプレゼンテーションがずれていては,仕事をしていないと同じです.
厳しくもあったが,この先生のおかげで成長できたと思える研修でありました.
医学部がなぜ文系ではなく,理系なのかを考えると,医療は数学に近いからだと思います.数学は問いに対して答えは一つ.ただ,その答えにたどり着くには様々な方法がある.
医療の場合は最適な答えは概ねガイドラインで決まっています.ただ個人によって正解が違う場合もありますが,数学同様問い(主訴)を解決することを忘れてはいけません.
救急外来で主訴不明の患者を前にしても同様
『今日は頭も痛いし,手も調子が悪い,体もなんかだるいし』
こんなそれぞれの症状の関連性がおそらく低いであろう,多くの訴えがある患者さんでも同様です.とにかく主訴が何なのかを決めないと,どう検査,診断,治療までの道筋をきめればいいかわかりません.
どうしてもわからない,そんなときには最終的に,
私:「ごめんなさい.今解決してほしいことの1番はなんですか?」
こうやって聞けば,正確な主訴を答えてくれることが多かったです.そしてその主訴を解決できれば満足して,安心して帰宅してもらえることの方が多かったです.
まとめ:主訴を追求してカルテの書く
研修医の神経内科の頃のような毎朝カンファレンスは二度としたくはありません(笑).ただ当時にいろいろ教えていただいたおかげで,外科にいる時のカルテも少しずつ分かりやすく書けるようになったと思います.
BOSS『うーん,まるで分ってませんね.主訴は何ですか?』
迷ったら主訴に立ち返って考えてみることが非常に大切です.
コメント
こんばんは。
患者側の感想です。
一番に解決したいのはどの病気なのか、意志を持って受診するのが大事、というのが最近ようやくわかってきました。
色々あってもいっぺんに全部治せないので、一つづつ治していきましょうと、総合診療の主治医に言われてます。考え方を理解すると、受けている医療に納得性が出て継続する気になります。
1つ治すと別の病気が2つくらい見つかるので、なかなか全解決しないのが悩みなのですが。。。
日頃、血圧や体重などを記録して気になる症状を書き出して、定期通院の前日に整理、当日話をしているので、上司に仕事の進捗を報告している感じになるのが若干イヤだ、通院の時くらい仕事を忘れて休みたいとは思います。
いつもブログを読んでいただきありがとうございます.
私が言えるのは,病気に対して医者と患者が同じ方向を向いていなければならないとおもいます.医者が『寿命』を伸ばすことだけにフォーカスしてしまうのではなく,患者さんの『満足度』にもフォーカスをする.患者さんも医者が言うから間違いないではなく,自分がどう生きたいのかを医者に伝えて相談してしていく.そして互いの意見を尊重しあう関係がいいのかなと思います.