・医者の婚約者がいるけれど,指輪はしない,外すと言われた.
・指輪しないのは,浮気や不倫しやすくするため?
・医者,特に外科医って指輪できないの?
こんな風に思われている方に読んでいただきたい記事をまとめました.
現在消化器外科医として病院勤務していて,指輪をしていない現役医師が解説します.
簡潔に結論を先に言います.
①感染症の危険因子(リスク)になりうる.
②仕事場で何度も指輪を付けたり外したりする場面が存在し,非効率.
③周囲もつけていない.さらにはなくす可能性大.特に手術をする科の医者であれば,なくす医者多数.
*浮気や不倫に関しては,完全にその医者の性格による.指輪するしないでの判断は困難*
以下に詳しく解説していきます.
【結婚指輪をしない】医者の私がしない理由.仕事と理由3つを解説.
医者の仕事内容を説明しながら指輪をしない理由を説明していきます.
医者の仕事内容:指輪ができない仕事?
皆様が浮かべられる医者の仕事内容はどんな仕事でしょうか?
患者さんの話を聞いて,診断して,薬を処方する.
これが多くのイメージだけど,他に何かあるの?
半分正解だけれど,それ以外にも多くの仕事があります.今言われたのは,外来と呼ばれる風邪をひいた時に行く病院の仕事.そうでなく,入院患者さんの仕事内容になると,がらっと仕事内容が変わります.
入院!?手術や大けがした時しかイメージないなー.
入院中の仕事が指輪と関係するの?
とても関係しています.これからそれを解説していきます.
入院中は患者さんの全身を管理していきます.その所々で手袋を使います.
医者の入院中の仕事では,手袋を使う仕事が多く存在します.
①外来:話を聞いて,検査を出して,診断を付ける.必要ならば薬を出す.入院が必要ならば入院するように伝える仕事.
②入院中の仕事:患者さんの全身を管理する.仕事の至る場面で手袋を使う仕事.
手袋なら指輪した手の上から手袋をつければいいのでは?
このように思われる方もいらっしゃるかもしれません.
一理あるとは思いますが,私たちの仕事では二種類の手袋を使う仕事が存在しています.
清潔操作と不潔操作です.
清潔操作:指輪を必ずしない処置
手術のような状況をイメージしていただけるとわかりやすいと思います.
手術の時には,外科医が帽子とマスクと服を着て,手袋をしています.
このような服装ですね.特に服と手袋に関しては無菌(菌がいない)状態です.
この無菌な服を着る前に必ず,手を2-3回洗って,アルコールで消毒してできるだけきれいな状態を作ります.
そのあとにこの服に着替えます.
なぜそんなに手を洗って,きれいな状況を保つ必要があるの?
患者さんもきれいに消毒して,手術を行います.体の中はもともと菌が存在しない場所です.それを今から触ることになるので,当然触る手もきれいである必要があります.
手をきれいな状態に保たず手術に入るということは,掃除してピカピカにワックスをかけた家の中を,土足の靴で走り回られる,そんなイメージです.これでは患者さんを汚してしまい,利益をもたらすとは言えません.
さらに消毒する時に指輪があっては,指輪の裏側がきれいになりませんし,指輪がついている指は完全にはきれいになりません.
ゆえに必ず,どんな医師でも清潔操作の時は指輪などの装飾品は一切していません.もちろん時計も外します.
私の経験上になりますが,清潔操作中に指輪している医者を一度も見たことがありません.
不潔操作:指輪をしている人もいる処置
採血などしてもらう時に,看護師さんが手袋をしていますよね?これは不潔操作とよばれます.
採血って汚い操作の中おこなっているか.いやだな.
そうではありません.医療業界では,菌が少しでもいる状況は不潔操作に当たります.つまり採血,のどの奥を診察される,お腹を触られる,これらの処置,診察も不潔操作に当たります.
皮膚を消毒して,医者自身も菌がいない服になって,何か処置を行う.これ以外はほとんど不潔操作にあたります.
この不潔操作の場合は指輪をはめた状態で,手袋をしている方もいます.こちらの処置に関して指輪をしないかするかは,その人の判断になる,または病院で規定があるなどに分かれると考えられます.
清潔操作➡医者は指輪をしない,不潔操作➡指輪をする医者もいる
清潔操作と不潔操作による違いをまとめます.
指輪などの装飾品は一切しない(もしくは必ず外す).手術が最も主たる例で,医者自身も無菌に近い状態で処置を行う.指輪をしていることで,汚染が増え,患者さんに不利益をもたらす可能性がある.
採血などの時にする手袋.病院のあちこちに置いてある手袋がこれに当たる.菌が少しでもいると考えられる医療行為は全て不潔操作になる.不潔操作における指輪をするしないは,個人の判断 or 病院の規定になる.
医者が指輪をしない3つの理由
上の解説を読んで,
清潔操作以外は指輪を付けたらいいのでは?
このように思われた方もいるかもしれません.以下に3つの理由を解説します.
医者が指輪をしない理由①;なくす
『普段指輪してないと奥さんに怒られるからつけてる...でもこの前,緊急手術の後付け忘れて,そのままクリーニングに出してしまった』
こんな先輩の体験エピソードも聞いていますし,私自身これはあり得ると考えています.手術をする時に,手術着に着替え,指輪を外す.着替えたり,指輪外したりしながらどうやって手術をするべきか考える.
真夜中に手術した後,眠い眼をこすりながら,手術着を着替える時に指輪をつけることを忘れる.
これは充分に考えられますし,もしそのまま病院のクリーニングに出してしまったら,指輪はもう永遠に帰ってきません.
私も絶対に指輪はしないと決めている理由の一つです.妻にも理解いただいています.
医者が指輪をしない理由②;まわりがしていない
特に心臓血管外科,消化器外科,脳外科,整形外科などの手術をする医者=外科医で指輪をしている人は私の周りにはいません.
そんな私も結婚した時に,先輩医師に言われたことがあります.
『結婚おめでとう.それで,奥さん,指輪をしないことに納得してくれた?』
外科医あるあるなのかもしれませんが,外科医では誰も指輪をしていないです.
医者が指輪をしない理由③;仕事を効率化したい
これはその医者の性格によると思います.ただ毎日手術があったり,手術だけでなくその他の処置でも清潔操作をしたりします.
何度も指輪を外して,つけて,外してつけて…それの繰り返しになります.
毎日の仕事なので,少しでも手間を省きたいと思っています.仕事の効率化です.ゆえに指輪をしないと判断する医師が多いとも言えます.
医者が結婚指輪をしないのは浮気・不倫の可能性?
浮気や不倫を心配される方もいるでしょう.ただ医療現場はその他の職場とは違った特殊な環境でもあります.
医療現場は『感染』が付きまとう特殊な環境.
下記のようにに考えられて,不安に思われる方もいるかもしれません.
結婚したのに指輪をしないなんてありえない.やましいことがあるに違いない.
医療職というのは特殊な職業でもあります.病院で働くということは必ずと言ってもいいほど,『感染症』と呼ばれる病気との戦いになります.
感染と戦う=目に見えない細菌やウイルスとの闘い,になってきます.感染を少しでも防げるのならば,指輪をしないと判断する医師もいます.
医療現場で指輪をしていることで感染が拡大する可能性があるとの論文もあるぐらいです.
ノルウェーの論文
J Adv Nurs. 2011 Feb;67(2):297-307. doi: 10.1111/j.1365-2648.2010.05462.x. Epub 2010 Oct 15.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20946569/
Factors interfering with the microflora on hands: a regression analysis of samples from 465 healthcare workers.
Mette Fagernes1 , Egil Lingaas
ノルウェーの医療従事者465名を対象に行われた研究です.腕時計や指輪をしている人といない人では,手に菌がついているのに差があるか,菌を周りに伝播させてしまう差があるかを検討しています.
腕時計をしている人としていない人では,腕時計をしている人の方が明らかにいる菌の数(保有数)が多いことが示されました.
また指輪に関しても,指輪をしている人としていない人では,指輪をしている人の方が明らかに菌の伝播率を上昇させることが示されました.
以上のことから,医療従事者は腕時計や指輪を外すべきであると結論づけられています.
スペインの論文
Rev Calid Asist. Nov-Dec 2011;26(6):376-9. doi: 10.1016/j.cali.2011.09.002. Epub 2011 Oct 26.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22033383/
Evaluation of a hand hygiene technique in healthcare workers
C Ramon-Canton1, N Boada-Sanmartin, L Pagespetit-Casea
こちらはスペインで行われた別の研究です.医療従事者の手の衛生を高めるために行われ,293名の医療従事者を対象とされたました.
293名の内,半数以上の人が手の汚染が存在しており,汚染があった人のうち90%が時計,92.7%がブレスレッド,84.3%が指輪をしていたと示されました.
こちらの論文でも同様に,医療従事者は手の衛生上の観点から腕時計や指輪を外すべきであると結論づけられています.
しかしながら,どちらの論文でも指輪などの装飾品をしているために,直接患者さんに害を与えたといった内容ではありません.しかし,衛生面からはしない方がいいというのは明らかでしょう.
それでも本当に浮気や不倫の心配はない?
浮気や不倫に関して言えば,結婚指輪が問題ではありません.完全にその人自身の問題です.
医者が結婚すれば,教授や同僚に必ず伝わります.それが伝わった瞬間,入院病棟の看護師さん,手術室の看護師さんなどにも伝わります.つまりよほどの隠そうとしない限り結婚していることは周知の事実になります.
そんな状況で浮気や不倫をしようとする,それは医者や結婚指輪の問題ではなく,その人の特性と考えるのが妥当でしょう.
医者は絶対に指輪をつけられない?
ここまで説明を聞いて,絶対医者は指輪をつけられないのかと思う方もいるかもしれません.ただ絶対ではありませんし,指輪をしている医者を見たことあるのではないでしょうか?
医者でも指輪をしている人はどうしてつけられる?
指輪をつけている医者は『開業医』と呼ばれる先生方に多いかもしれません.
開業医の先生は入院患者さんがいない.つまり清潔操作を行うことが極端に少ない.不潔操作ばかりのため指輪をしようと思えばできるし,まわりの医者の目を気にする必要性もありません.
医者が指輪をしない理由の①なくす,②周りがしていない,③仕事の効率化,と言った理由が全て解消されます.さらには感染症のリスクはそれほど気にしなくて問題ありません.
それは直接触れる機会も少ないですし,患者さんに大きな傷などのばい菌が入り込む場所がないことが多いからです.そのため開業医の先生は指輪を付けている人も多いかもしれません.
勤務医でも指輪を付けている医者いる?
勤務医でも清潔操作が比較的少ない,精神科や放射線科医(CTを読影する医師),限られた内科医などの先生はつけている場合もあります.清潔操作が少ないため,指輪をしない理由が解消されるからです.
何度も繰り返しになりますが,手術をする外科で指輪をしている医者はほぼいません.少なくとも私の周りはいません.
医者は指輪をしない:まとめ
①清潔操作と呼ばれる無菌に近い操作を行う必要があり,この時には必ず指輪を外す.
②特に外科医は毎日の手術でつけたり外したりするため,周りもみなしていない.
③なくす可能性が高い,仕事を効率化したい側面もある.
④感染症を高める危険性がありうる
⑤指輪をできる医者(勤務医)もいるにはいる.👈清潔操作の少ない科の医者が多い
いかがでしょうか?
指輪をしない医者が多いことに関してまとめさせていただきました.少しでも医者とお付き合いしている方や婚約された方で不安に思われている方が減れば幸いです.
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