●外科研修も少し詳しく勉強して研修をしたい.
以前の記事で外科研修で手術の勉強は不要と書かせていただきました.それでももう少し詳しく知って,研修したい.そんな方に読んでいただければ幸いです.
現在消化器外科医として勤務する現役医師が解説します.
ただやはり外科医にならないのであれば,研修医の先生の手術の勉強は不要であるとの考えにはかわりはありません.
【研修医向け】外科研修をもう少し知って研修したい.少し深く解説.
私が医者3年目に外科医になった時に,上級医に様々教えていただきました.その時の教えを考えながら外科研修をどのようにするべきかを詳しく解説します.
上級医の言葉:術後管理を極める.
上級医にまず言われました.
手術手技や研究論文は上級医に勝つのは,その年齢では難しい.しかし術後管理なら同等のレベルになれる.
医師として3年目に働いた時に,その言葉を理解することになります.つまり先に言っておくと,研修医が手術手技で同等のレベルになるなんて天地がひっくりかえるくらい無理なことです.
手術は実際に執刀医を体験しないければわからない.
私の話をさせていただくと,医者3年目で私が執刀した最初の手術は『虫垂炎』でした.
実際に行ってみると全く手が動かない.完全にここほれわんわんなのです.
これまで何度と上級医の先生が執刀されている姿を外から見て,手順も学んだ.手術書も読んで勉強した.絶対に自分で手術するから手術工程も頭に叩き込んでいた.
それなのに,それなのに,全く手が動かない.
ば、、、化け物め、、、ち、、ちくしょう、こ、、、この俺がまるで赤ん坊扱いだ.
もし上級医の先生が敵であれば,私はベジータ様状態になっていたでしょう.手術の時は上級医の先生が本当に頼もしかったです.
これほどまで手術は難しいのかと実感した瞬間です.
やはり研修医でまわるなら術後管理
ちなみに外科医志望の研修医2年目の先生にラパコレ(胆嚢摘出術)をできる範囲でしてもらったことがありますが,以下のように言われていました.
見ていると簡単そうなのに,実際やってみると臓器との距離や手術道具の使い方などが全然わかりませんでした.
手術はこれほどまで難しいので,研修するのであれば『術後管理』こそが重要です. 研修医で外科研修する時に知っておけばよかったと思うことを書いていきます.
術後の管理:臓器別合併症に関して説明.
術後の流れ
まずは術後の基本的な流れを知っておきましょう.
★大まかな術後の流れ★
- 術当日
最も注意するのは出血.最悪,緊急手術を要します.
出血は一瞬でshock vital に至ります.しかも動脈出血ならば止まりません.
輸血で間に合わないこともあります.
ドレーン排液量がどんどん増えてきていないか?
vital変化ないか?要チェックです! - 1POD
離床を始めます.
我々にとってはいつものことですが,その患者さんにとっては初めてです.
ゆっくり座位,立位,いけるなら歩行まで.
リハビリにお任せする時もありますが,時間があるなら一緒にしましょう.
どう患者さんが回復していくのかがわかります. - 2-7POD
縫合不全が生じます.大抵この期間に生じます.
ドレーンの観察はこまめに.性状(色の変化,混濁等)を要チェック!
急な発熱があったら,上級医と相談しましょう.
fever work up も大切ですが,手術に関連した発熱のことが多いです.
こちらが大きな流れになります.術後1週間経過すれば,合併症が生じているのか生じないのかが,わかってくると思います.
結腸切除,直腸切除の術後管理
大腸切除の術後管理に関して考えていきます.大腸は便を貯留する,運搬する臓器であるので,切除するとその能力が低下するようになります.以下詳しく解説していきます.
大腸切除により腸管が短くなるため生じるのは?
結腸や直腸を切除することで全体的な腸の長さは短くなります.大腸が短くなるため,どうしても水分を吸収力や排便する力は落ちそうというのはイメージが付きやすいのではないでしょうか?
手術した後から便が軟らかく下痢っぽいんだよね.
この様に訴えられる患者さんもいます.抗菌薬使用に伴う影響もあるとは思いますが,腸管の長さが短くなることを考えれば必然とも考えられる現象です.
少しずつ改善していく方が多いので,電解質・volumeに注意して経過をみていきましょう.あまりにもひどいなら止痢薬も検討します.
縫合不全
大腸の手術の縫合不全は,便が腹腔内に漏れるため,一気に感染症が広がります.縫合不全は重篤なので,即緊急手術を行い,人工肛門を増設する可能性があります.
縫合不全がないかどうかを早期にキャッチするために,ドレーンから便が出ていないかを見るのはもちろんです.それ以外にも急な発熱には十分注意しましょう.造影CTを考慮します.
排便する時にいきんだ後から腹痛が強い.
このような場合にも,肛門に近い場所で吻合しているならば,圧力がかかって縫合不全になる可能性もありますので,いきみには注意してください.
もし縫合不全が起きたなら,敗血性ショックになりえます.高リスクの方であれば,カテコラミンを使用しなければなりません.一気に全身管理になることもあるので,カテコラミンについても勉強しておきましょう.
そんな時間ないよーって方は,NoA 3mL + 生食47 mL の合計50mLで開始しましょう.γ計算が行いやすいからです.
胃切除の術後管理
続いては胃切除の術後管理に関して考えていきます.胃は食事を,貯留させ,拡散し,殺菌し,消化し,蠕動して運搬する臓器です.切除するとその能力が落ちることは大腸切除と同様です.
胃を切除して胃が小さくなると?
胃が小さくなるため,食事量が減って食べられない,少し食べると吐きそうになるといった症状がでます.
もうお腹いっぱいだわ.食べられない.
食事摂取が進まないことが最も大きな問題です.持ち込み食でも何でもいいので,好きなものを食べて体重を減らさないようにすることが,長期目線では非常に重要です.
リハビリもしっかり行ってもらうようにしましょう.
縫合不全
①:Roux-en-Y 再建
Roux-en-Y 再建で,縫合不全はほとんど起きません.
この患者さんは低栄養でリスクが高いなー,R-Y再建にしようか.
このように合併症が効率に起きそうな場合は,Roux-en-Y再建を選択します.それほどまでR-Y再建は縫合不全が生じにくいです.
①-2:Roux stasis syndrome (ルーステイシスシンドローム)
ただRoux stasis syndromeといった食事がながれず嘔吐してしまう合併症があります.R-Y再建後に,嘔吐が続くようなら一度造影剤を飲んでいただいて,透視の検査をするでしょう.
全く造影剤が流れていかないような像が見られるかもしれません.この場合は,食事が流れてくれるのを待つほかありませんので,中心静脈栄養も考慮します.
②:Billroth-Ⅰ法
最近では腹腔鏡でよく行われるようになりました.もちろん開腹手術でもされます.食事の通過方法が生理的で,ERCPも行うことも可能です.
縫合不全が生じると胃液,胆汁等が漏れてきます.ドレーンの観察は怠らないようにしましょう.
②-2:吻合部狭窄
吻合方法は手縫い吻合が多いです.腹腔鏡の場合は器械吻合になるでしょう.特に手縫い吻合の場合,吻合孔が小さくなることがあります.臨床症状として,嘔吐が続くなら吻合部狭窄の可能性があるかもしれません.
食道・肝胆膵の術後管理
この科を研修医で回ることは,外科医志望でなければお勧めしません.たかだか1-2ヶ月で理解するのが難しいですし,手術時間も長時間にわたります.手術はダイナミックですがわからない状況が何時間も続いている中,立っているのは苦痛以外の何物でもありません.
それでも術後管理に興味がある方向けに説明します.
縫合不全があれば,吻合が胸腔内のため,呼吸状態が悪化.胸腔内ではない吻合方法もあるが,その場合は解剖の理解が困難.
挿管や気管切開などの処置が必要になる可能性が胃・大腸よりも高い.
もともと喫煙者が多く,肺機能も悪く,呼吸器の合併症が多い.さらにクリアランス機能も術後で落ちて,臨床症状として現れにくいことがある.
酸素化は注意しましょう.
縫合不全の確率が大腸や胃と比較して高い👈合併症が生じやすい.
特に膵瘻は大出血しうる👈昨日までは元気だったのにいきなり,倒れてます!と言ってshock vital になっていることもあるので要注意.
膵瘻・胆汁漏になるとなかなか治らない👈ドレナージはいいか?ドレーンが詰まるとすぐ熱.
これらを臨床症状,血液検査,ドレーンなどから一元的に説明しなければなりませんが,非常に難しいです.特に手術の内容を理解しきったうえでの会話がなされることが多いので.
私自身,研修医時代,肝胆膵をローテションしたけれど,道具の準備が上手くなったくらいで,あとは何も覚えていません.
このような状況になりかねませんので,積極的にお勧めしません.
まとめ:外科研修をもう少し知って研修したい.
術後管理にこだわった研修のために,術後管理,特に合併症に関して説明させていただきました.術後管理をすることで,他科でもしようできる『全身管理』を少しでも学ぶことができます.
ドレーンなどが多く入っていて,理解に苦しむことも多いと思います.毎日観察しながら,特に縫合不全を見落とさない,そんな研修にしていただけたらと思います.
拙い説明で申し訳ございませんが,少しでも明日からの研修生活に役に立てば幸いです.
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