●腸閉塞の具体的な症状?痛みは?
●食事に原因はあるの?治療って手術?もし入院したらどれくらいの期間?
●退院して仕事できる?普通の生活でよい?
腸閉塞に対してこんな疑問をお持ちに方に説明します.
2023年現在,消化器外科医として勤務している現役医師(勤務医)が解説します.
具体的にわかりやすく腸閉塞の原因,症状(痛みを含む),治療,入院期間,退院後仕事復帰などについて説明します.
腸閉塞とは?原因,症状(痛み),食事,治療,入院期間って? 退院後仕事復帰できる?
腸閉塞とは?
まず結論を先に言います.
『腸閉塞=腸が詰まって,食事が通過しない状態』のことです.
食事というのは,口を通って便として出ていきます.
当たり前かもしれませんが,口➡食道➡胃➡十二指腸➡小腸➡大腸➡肛門➡便の順番です.
食事がこの順番以外で出ることは基本的にありません.
基本的にと書いたのは,消化器外科医はその順番を手術で変更可能だからです.
食事の通過は一方通行.高速道路と一緒.
先ほど申し上げましたが,食事の通り道は口➡食道➡胃➡十二指腸➡小腸➡大腸➡肛門➡便の順の一方通行です.
これを例えるなら高速道路をイメージしてください.
高速道路では,車は基本的に止まることなく交通しています.
しかし,高速道路で事故が起きてしまった場合,そこで渋滞が発生します.
その事故が改善されない限り,車がどんどんどんどん停滞します.
最終的に停滞が続くと,高速道路入り口まで停滞します.
これを食事の通り道に置き換えると,高速道路の入り口が『口』で,高速道路は『胃,小腸,大腸などの腸管』になります.
高速道路より外側=一般道 は『口』より外の世界になります.
つまり腸閉塞は,『お腹の中で交通事故が発生し,渋滞してしまった状態』です.
以下にポイントをまとめます.
- 高速道路 = 小腸や大腸などの腸
- 車 = 食事
- 渋滞 = 腸閉塞
このように考えてもらえばわかりやすいと思います.
腸閉塞の原因はなに?
腸閉塞の原因として最も多いのは『癒着』です.
ゆ、ゆちゃく??
それほど難しく考えなくとも大丈夫です.
『癒着』とは腸がどこかにくっつくことを言います.
お腹の中でどこかにくっつくと,それが邪魔して腸管をせまくします.
それが原因で食事が通らなくなってしまい,腸閉塞になります.
これを『道路』に置き換えて考えてみましょう!
例えば,道路のそばにある山が土砂崩れしたとしましょう.
それで1車線がなくなってしまうと,通れる車の量が限られ渋滞が生じます.
1車線がなくなるだけならいいですが,完全に閉鎖されると全く車は通過できなくなります.
お腹の中でも同様で,食べ物の通り道(小腸・大腸)が狭くなれば,渋滞が生じます.
そして停滞がひどくなれば,最終的に吐いてしまうというわけです.
通常は小腸は『癒着』しておらず自由に動き回れる状態なんですが,『癒着』してしまうと通り道を狭くしてしまうわけです.
ヘアピンカーブを想像するとわかりやすいと思います.
ヘアピンカーブだと車もブレーキ踏まざるをえないね.
そう.ブレーキを踏み続けると車が停滞して渋滞するよね.
これがまさに『腸閉塞』の原因なんだ.
①『癒着』:腸がお腹のどこかとくっついてしまうことで,通り道が狭くなる.
➡道幅が狭くなることで渋滞が生じ,吐いてしまう.腸閉塞の原因として最多.
②『捻じれる』:腸が捻じれることで通過できるのもできなくなってしまう.
➡ヘアピンカーブが強すぎるとブレーキを踏んで徐行しなければいけない.
③『道を塞ぐ』・・障害物があると物理的に通過できない.
専門的には原因はまだまだあります.
お腹のなかで渋滞を生じさせる原因すべてが腸閉塞の原因と考えてもらえればいいです.
『便秘』すら最悪の場合,腸閉塞になります.
なぜかというと,便が本当に硬くなって,通り道を塞ぐことで渋滞をひきおこすからです.
腸閉塞の症状は3つ.
腸閉塞の症状その①:嘔吐,吐き気
お腹の中で食事の渋滞が起きている状態ですから,最悪の場合,吐いてしまいます.
嘔吐は腸閉塞のもっとも典型的な症状です.
吐きそうという吐き気も症状のひとつです.
腸閉塞の症状その②:腹痛(痛み),お腹がはる
腸閉塞になると,お腹の中は食事でパンパンに膨れますので,お腹が張ってきます.
お腹がパンパンに張ることで痛みを伴うこともあります.
通常のお腹の大きさよりもお腹が大きくなっているわけですから,皮膚も伸ばされ,お腹に力が加わり痛みをひきおこします.
緊急手術が必要になるような腸閉塞では痛みがとても強いです.
腸閉塞の症状③:便,おならがでない
お腹の渋滞は腸のある一点で生じています.
ゆえに,渋滞している場所より奥の道は,通常運転されているはずです.
しかし食事が通ってこなければ,通常運転であってもでるものがありません.
つまり,便としてでる食事もありません.
便が出ない,空気であるおならもでない,これが腸閉塞の症状です.
腸閉塞の治療
腸閉塞の治療①:飲まない,食べない=絶飲食
少しでも渋滞がなくなるためには,車の数が減れば渋滞が緩和されます.
渋滞していてもそれ以上車が来なければ,渋滞はひどくはなりません.
腸の中でも同じで,今以上の食事や水分をお腹の中に入れないことが,腸閉塞の治療になります.
つまり,何もたべないってこと!?
そうです.食事をせずに,渋滞が治ってくれるのを待つのが治療になります.
ただし,お腹の腸は『腸液』が絶えず産生されるため,ご飯を食べていなくとも渋滞がひどくなってしまうことも...
腸閉塞の治療②:鼻から管を入れる=減圧
渋滞が生じても,レッカー車で渋滞している車を何台も何台も運んでしまえば,渋滞ではなくなりますよね?(あくまで理論的にはですが)
お腹の中でも同様で,食べてしまったものを出してしまえば腸閉塞を改善させます.
これを『減圧』と呼びます.
具体的には鼻から管を通して,胃の中に留置します.
腸の内容物を吸ってあげます.
そして自然と道路が再交通するのを待つだけです.
腸閉塞の治療③:歩く
え?歩くことが治療?
歩くことでお腹の中の腸が揺れ,腸が活発に動きます.
揺れることで,勝手に再交通することもあります.立派な治療です.
腸閉塞の治療④:手術
手術も治療法の1つなんですが,治療としては最終手段です.
手術は道路で言えば新しく道路を作るみたなものですから,大掛かりになってしまいます.
そして手術も大きく分けて2つのパターンがあります.
- 緊急手術が必要:腸がねじれたり,1か所だけでなく2か所塞がれている時など
- 他の治療をしたけれど,どうしても治らない場合
緊急手術が必要な腸閉塞
道路そのものが崩れてしまっている,ねじれている,そんな状況の時は道路事態を整備をしてもらわないと治りません.
すなわち,すぐさま手術が必要になります.
お腹の中の腸は,血液から栄養をもらって動いています.
その栄養となる血流が遮断された場合,腸はどんどん腐っていきますので,早急に手術が必要になります.
外科医が緊急手術をするかしないかの判断をするのは,この血流があるかないかが大きな判断の分かれ目になっています.
どうしても治らない場合の腸閉塞
食事もやめた,鼻から管も入れた,どんどん歩いている…
けれども治らない…
そんな時には手術をして,道路を再度整備するしかありません.
あとは腸閉塞を繰り返している場合も手術になります.食事しては嘔吐して,治ったけれど1週間ですぐにまた腸閉塞になってしまう.
上記のような場合も手術をしてもよさそうです.
腸閉塞の入院期間
結論は1-3週間程度です.
ただ症状が改善するまでの期間がばらつきが多く,あくまでも目安にはなります.
なぜなら,便がでれば治っているとの証拠になりますから,便がでるまでは退院できません.
渋滞が解除されて,車が出口までたどり着くまでは,治ったかどうかわかりません.
便が出て,食事を再開して,同じような症状にならなければ,退院できます.
腸閉塞で気を付ける食事
消化に悪い食事は避けるというのが一般的です.こんにゃくやキノコ類などは避けた方がいいと言われます.
さらにはお餅で腸閉塞になった例もありますので,気を付けていただいた方がいいでしょう.
ただ食事も原因の一つですが,絶対に食べない方がいいというわけではありません.
腸閉塞の多くの原因は癒着ですので,癒着の仕方等によって異なるというのが正直な意見です.
私自身としては,患者さんに食事はこれまで通りで構いません.よく噛んで食べてください.
私は上記のように伝えています.ある食事を食べて腸閉塞が再発するのなら,それは食事よりも道路(=腸管)の問題だと考えているからです.
腸閉塞から退院後仕事復帰できる?
どの患者さんにもよく聞かれる質問の一つです.
どのくらい安静にしていた方がいいのか?どの程度仕事休んだ方がいいのか?
このように聞かれることが多いですが,先ほど腸閉塞の治療のところでも説明したように,『歩く』ことも立派な治療です.
つまり,すぐにでも仕事復帰しても構わないということです.
しっかり運動して,しっかり噛んで食べて,普段通り生活していただく.これで構いません.
ただ手術をした場合は別です.
手術をした場合は傷のくっつき具合などで生じる合併症もありますので,激しい運動を伴うような仕事復帰の場合は時間を置いた方がいいです.
1か月くらいは,腹筋を酷使する運動は避けるべきといつもお伝えしています.
腸閉塞まとめ:退院後仕事復帰できる?症状(痛み),食事,治療,入院期間って?
腸閉塞は,世間で広く知られている盲腸(虫垂炎)の手術をしてもなることがある病気です.
腸閉塞はお腹の手術をすると,起こりうる可能性のある1つの合併症です.
患者さんに説明する時には上記のように説明しています.
手術をする=お腹が外の空気に触れてしまう=癒着する可能性を高める.この可能性を作ってしまうからです.
手術は必殺技のように病気を治してしまう良い一面もありますが,そうではない合併症も持ち合わせています.
ただもし,家族や友人の方で腸閉塞になってしまったときには,『本人とご家族さんが一緒に病棟を歩く』,これも大きな治療方法の1つです.
今現在,腸閉塞で入院された方は,この記事を読んで必死に歩くことをしてみてください.
また,もし家族の方で腸閉塞で入院した方がいれば,電話やメール,ラインなどでしっかり歩くように励ましてはいかがでしょうか?
コロナ禍が終われば,面会して,一緒に歩く,そんな社会になればうれしいです.
当ブログでは医療や医者の生活についてまとめていますので,気になる方は参考にしてみてください.
もうちょう(=虫垂炎)に関しては以下を参考にしてみてください.
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