●後輩/部下に仕事を教えて仕事が進まない.嫌ではないけれど,疲れることもある.
●自分ってどう教えられたっけ?他の人はどうなんだろう?
私自身も医者で30代になり,少しずつ後輩や部下ができました.どう接するのが正解なのか非常に悩むことも多いです.
自分自身の研修医時代の教えられ方などを振り返ってみたいと考えます.自分自身はそう教えてもらってよかったと本当に今では思います.
医者の中には,入院患者さんを診察する時,何気なくしている人もいると思う『採血』ですが,その『採血』に意味を持たせてくださった先生のお話です.
採血は2.3日おきにすればいいんでしょ?採血見てからいろいろと判断するんでしょ?
このように思われている方必見です.脳神経内科の先生たちは本当に賢いなぁ~,神経回路どうなっているんだろう?そんな先生の指導方法でした.今でも音叉を持ち歩いている先生を見ると,その神経内科の先生を思い出します.
今回の記事は対話形式になっていますので,Point だけ読んでいただければ幸いです.医療関係者でない方も是非読んでみてください!
後輩/部下の教育:疲れる?難しい?~私の研修医時代の教えられ方~
『まず君ならどうする?』とまずは考えさせる.
どんな問題であっても,急ぐ問題であっても聞かれるセリフでした.
恩師『君ならどうする?』
私『・・・(それがわからないから質問しているんだけれど.)』
ただいつも聞かれて,何度も考えさせられると慣れてきます.
私『脳梗塞の患者さんだから,バイアスピリンを飲ませますね.』
恩師『うん,次はどうしようか?』
私;(うーんとまだまだ考えさせるのか・・・).『うーん,血圧下がってほしくないから点滴をかなり負荷しますかね.』
恩師『それもいいね.午後には食事食べられない人が来るから,点滴のメニュー考えといて』
常に常に,どうするか、どうするか,と時間をくださいました.
考えて実行させる,それから教える.
私:(むふむ,3号液3本と外液1本の4本回しで今日は乗り切れるだろう.)
恩師『○○くん,4階に入院するから来てね』
4階???ICUやんけ.どういうこっちゃ.
恩師:『○○くん,痙攣重責発作で鎮静かけて眠らせるから全身管理を考えようか.』
『点滴はその一つだから,その他もどうすか考えてみてよ.』
『とりあえずはその4本回しでいいから,その他必要なこと考えてみてよ.』
『挿管は後期研修の子がするから,CV(中心静脈)は先生ね.』
私:『はい!』(そんな重症な人のことを僕に任せてもいいんか…)
恩師:『1時間あげるから考えてきてよ,自分で調べて今一番いいもの持ってきて!』
私自身,負けず嫌いなこともあり,できる限り調べようとしました.まずは同期や先輩に聞こうと,研修医室に戻るけれど誰もいなかった.こんな時はgoogle 先生に聞くしかないな.
どうやら中心静脈栄養の種類はハイカリックってものがあるらしいな.これだ.kcal計算もあるが,一応体重とか考えてこのカロリーかな.
恩師『ほう,ハイカリックね,じゃ,今日から投与ってことでよい?』
私『え?いや、どうですかね...今日は炎症もあるんで明日からっすかね.』
恩師『ごめんごめん.そろそろ教えよう.君には言語化の練習をしてほしかったんだ.』
言語化??研修医時代,つまり新人の私には全くない概念だった.勢いとやる気!とにかくまずはやってみてなんとかしよう!そんな精神で乗り切ってきた人生だったため,言語化,何それおいしいのだった.
『言語化』~明日の採血をする理由?~
言語化:『医療の仕事』とは『感情的』にではなく,論理的思考で行う.
恩師:『そろそろ研修の最後だから.医療行為ってすべてに行う理由があるんだよね.それを全て言葉で表現してほしいんだよね!』
恩師:『あぁ,ちなみに家で言語化はしちゃだめだよ.僕も奥さんにめんどくさいわ!ってウザがられたからね.』
当時はなんか軽いノリで言ってるなー,ぐらいで思っていましたが,『言語化』は論理的思考には必要な要素であることに間違いありません.
もちろん,こうすればいいとか,ああしたらいいとかで伝わることもあります.ただ医学,医療行為はそうではなく,論理的な道筋が必要になってくることを私自身後々思い始めます.
明日の採血をする理由ですらも『言語化』する
その後,また質問をだされた.
恩師『○○くん,明日採血入れているけれどどうしてかな?』
私『どうして、、、って経過をみたいからです.』
恩師『何の?』
私『その質問,患者さんって意味ではないですよね??でも答えとしては患者さんの明日の状態をです.』
恩師『明日の状態を採血でみて,どこが異常でどうだったら,どうしようと思うの?』
私 【どこがどうって,それを見るために採血するんではないですか?】
恩師『それは正しいけれど,その過程の道筋が間違えているね.』
『今の患者さん状態をみて,それならば白血球はこの数値で,肝機能は若干上がる.』
『こんな風に予想しておかないと.』
『そこに自分の疑問に感じる血液データがでたら負けだよ?』
私『え?そうなんですか?』
恩師『究極は採血して,こういうでーたなら,この処置をする.』
『採血をするからには理由付けが必ず必要なんだ.』
『理由付けをするにもすべて言語化しないとみんなに説明できないよね?』
恩師『なーんて偉そうなこと言っているけれど,採血は取るものだけれどね.』
『みんな何気なくとっている人が多いんだよね.』
『ただその過程で大きな差がつくよ.』
『炎症反応が上がってます,だから抗菌薬いきます,なーんて人もいるからね.』
『大抵それでうまくいくんだけれど,うまくいかないときが医療には絶対あるから.』
『そのうまくいかない時も想定した上で処置やオーダーをしてほしいんだ.』
この人,究極すぎる.けれどそれを毎度毎度実践しようとしている.この人,実はやばくね,すごくね!?
①全ての採血データを事前に予測しておく.
②その予測と違うならば,自分の予想していないことが生じている可能性がある.
③採血しても治療方針に変化がないなら,その採血は必要?
④採血してこの数値ならこうする,そうでないならこうすると事前に行う医療行為を検討.
⑤何気なく採血をとらない.その過程を大切にすることで臨床能力が上がる.
研修医時代に『言語化』して説明するということを教えてもらえたおかげで飛躍的に,患者さんを診察する能力が身に付くようになりました.研修医2年目の最後の方には,自身をもって上級医にコンサルとも可能になりましたし,何よりするべき採血が格段に減ったように思います.
部下/後輩に教える際や質問に答える時は,言語化を要求する.
医療のような,論理に基づいて行わなければならない仕事であれば,やはり言語化してもらうのは非常に良かったなと思います.
もちろん仕事ができる人の仕事を真似るというのが,上達が早いと思います.ただ見て真似て仕事を覚えるだけでなく,言語化して考えてもらう,それもあわせてすることで,自分ひとりで仕事をしないといけない状況下でも打破できる力が付きやすいのかもしれない.そう思うことがあります.
もちろん,人によってあうあわないがあると思います.感情を排除して,言語化➡論理的思考に落とし込むと冷たくみられることもあると思います.
ただ私はこういう恩師に出会えて非常に幸せでした.
消化器外科医になった今,術後管理でも『言語化』を練習中.
術後の採血
今現在,術後であっても,ひとつひとつ考えるようにしています.採血する理由,処置をする理由等を考えてオーダーをするようにしています.
上級医「1-5PODまでは毎日採血しろ!心配じゃないのか!」
もちろん,上記のように怒られることもありますし,そう怒られたらその先生の前ではそうしています.ただ私自身の心の声としては,
私『毎日採血したから心配がなくなるのか?なくなる心配は誰の心配なんだ・・・』
自分が患者として入院するなら採血はできるだけしてほしくない.痛い思いをしたくないし,できる限り痛い処置は避けたい.
ドレーンの性状が混濁しているから,このように処置をしようかな.でも臨床症状は落ち着いているからそれは本当に正しいのか?
毎回,毎回,論理的に頭の中で症状,術後経過を組み合わせて,オーダーをいれる.私自身,恩師の神経内科の先生には到底及ばず,どうしても採血を入れるあります.
私『ああ、よかった.採血の値,改善してる.でも抗菌薬は続けるか.』
このように確認のための採血・処置をしてしまうことがあります.この度に失敗した,,,無駄な採血だった.と反省しています.
ただもちろん思うのは,手術の翌日,3,4日目,7,8日目の決まった術後の採血は必要だと考えています.その日当たりで合併症が生じやすいからです.
そうではなく,本人が元気なのにも関わらず,血液検査ばかりを追いかけ,データがよくならない,よくならない,と毎日毎日採血するのは違うと考えています.
手術においても言語化することが目標
また手術手技に関しても,
『こうやるんだって!』『こうだから貸してみて!』
って教え方はダメだと思っています.これも神経内科の恩師の先生のおかげで,可能な限り言語化して手術を伝える.非常に難しいですが,手技(体で行う操作)すらも言語化で表現します.
確実に手術が上手くなるスピードも上がるし,説明もうまくなるはず!と思って頑張っています.
手術手技も,教える言語化も毎日向上して,いつかまた神経内科の先生とお話しする機会を持ちたいです.
今回は以上になります.少しでも皆様のお役に立てれば幸いです.
コメント
こんにちは
教育、育成はどの職業でも大切で大変ですね
論理的思考と言語化、なかなかに難しい。つい惰性でいつもやってるからーって考えずにやってしまうことよくあります。
いいお医者様がたくさん増えていくようがんばっていただけると患者はうれしいです
いつもブログを読んでいただきありがとうございます.
私自身はまだまだですが,いつか恩師のように教えられるようになればいいなと思っています.